THE COURT OF APPEAL

英国王室の洒落者たち

October 2023

text josh sims

ステッキを持ち佇むエドワード7世(1841~1910年)、(1900年頃)。

 実際、王室が長い間受け継がれてきた伝統を破ることは、嫌われることが多い。例えば今日、チャールズがトマトレッドのリップストップ・ナイロン地で作られたスーツを着て、テープカットに現れたらどうだろうか? 21世紀においても、男性王族の服装はクラシックそのものである。

 一方かつては、積極的に新しいものを取り入れた王族もいた。ヴィクトリア女王の息子アルバート・エドワード王子(後のエドワード7世)は、現代のラウンジ・スーツを考案した人物として知られている。シングルブレステッドのジャケット、ウエストコート、トラウザーズを同じダークカラーの生地で揃えたものである。しかし、これに対して両親は眉をひそめた。

 ヴィクトリア女王は息子に対し「贅沢なものを身に着けることは、自尊心を傷つけ、良識に反し、モラルに無関心になる」と迫った。つまり、よい服は人を堕落させると信じていたのだ。エドワードの父親は、もっと辛辣だった。

「残念ながら、エドワードは服以外のものにはまったく興味を示さない。狩猟に出かけても、射撃よりもトラウザーズのことで頭がいっぱいなのだ」と彼は書いている。

 ヘンリー王子の軍服を仕立てたディージ アンド スキナー社のウィリアム・スキナー氏が指摘するように、エドワードの服装への執着は、このような子育てスタイルへの反動と見ることもできるかもしれない。しかし、エドワードの服装への興味は衰えることがなかった。スポーツマンだった彼は、何をするにも個性的でカラフルな服装を好んだ。トラウザーズに中央の折り目をつけず、サイドの縫い目に沿って折り目をつけるという実験も行った。裾を保護するためにターンアップを採用した。また、ウエストコートの一番下のボタンを外すことを始めたのも彼だった。

「今日、その習慣が王室の影響によるものだと知っている人は少ないでしょう」とスキナーは言う。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 53

1 2 3