October 2023

THE COURT OF APPEAL

英国王室の洒落者たち

text josh sims

 チャールズは、ツイードの仕立て屋やキルトの製造業者にもロイヤルワラントを授けている。

「国王はクラフツマンシップにとても関心をお持ちです。それは、身に着けるものすべてが美しく作られていることを見れば一目瞭然です」と、ハイランド地方のテーラーCampbell’s of Beaulyの共同経営者であるジョン・サグデンは指摘する。彼らは昨年、そのクオリティ及びサステナビリティに対する取り組みを評価され、チャールズからロイヤルワラントを授与された。

「服の生産方法をめぐる問題全体に取り組むことが重要なのです」とサグデンは付け加えた。

 2005年、チャールズ皇太子がカミラ・パーカー・ボウルズと結婚する際に着用したモーニングスーツは、その13年前に作られたものだった。驚くべきことに、現在アンダーソン&シェパードが国王のために行っている仕事の80パーセントは、修理や手直しの仕事である。アンダーソン&シェパードの記録に登場するMr. Charles Smith(チャールズの符号)は、こうした控えめな方法で男性の服装に影響を与えているのだ。

カミラと結婚式を挙げた際の装い。パイピングの施されたモーニング・ジャケットに、ドレススリップ(襟上端に施された白い布)のついたダブルのウエストコート、シルバーのタイ、コール・トラウザーズを合わせている。カミラのドレスはアナ・ヴァレンタインがデザインしたもの(2005年4月9日)。

服にしか興味がなかった王 セレブリティが増え、SNSが発達した現代において、かつて王室の装いが、いかに重要であったかを推し量るのは難しい。しかし、写真が発明された19世紀半ばには、大英帝国の繁栄により、彼らのファッションは世界的な影響を与えていた。ヴィクトリア朝時代のスタイル・バイブル『The Tailor & Cutter』誌には、王室の装いのイラストが定期的に掲載されていた。20世紀半ばにハリウッドやポップスターにその座を譲るまで、彼らはスタイル・アイコンであった。

 しかし、スタンダードになるということは、必ずしもトレンドをつくるということではない。すべての王室男性が流行を追い求めたわけではないのだ。例えば、ジョージ5世は、ラウンジ・スーツがポピュラーとなってからも、ずっとフロックコートを着続けていた。実は彼は昼間の地味な服装に興味はなく、金モールで飾られた軍服姿のほうが好きなのであった。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 53

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