THE ART OF TAILORING

SARTORIA CICCIOに聞いた、100%失敗しないツイード・ジャケットの作り方Q&A

December 2021

photography tatsuya ozawa

左::シェットランドは織りが甘く、ふわりとした質感。右:ハリスは有名銘柄。ざっくりとした織りと硬めの毛が混じっているところが特徴。

Q:今人気の生地は、どんなものか?
A:「柔らかく、軽く、渋い色目のものです。シェットランドがこれに当てはまります。あと注目されているものとしては、“アンダイド”のツイードがあります。漂白されていない、羊の原毛をそのまま使った生地のことで、漂白段階で出る汚染を減らすことができ、エコだというわけです。こういう自然な色合いは、私の好むところでもあります。今回はロロ・ピアーナとマーリン&エヴァンスのものをご紹介しましたが、他のメーカーからも、ちょこちょことリリースされています。やはりサステナビリティの流れは、生地メーカーも無視できないのでしょう」

Q:何か、珍しい生地はあるか?
A:「アリストンの“ツイード調ジャージー”はいかがでしょう? これはツイードではないのですが、遠目には、まるでネップ・ツイードです。最近のジャージー生地は、裁断にさえ注意すれば、普通に使えるんです。お納めした方からは『とにかくラクだ』とご好評を頂いています。ただこの真っ青な裏面だけはなんとかしたほうがいいと思うのですが……(笑)」

左:ドネガルは、美しいネップが入っている。右:チェヴィオットは密の高さと派手なペインに好き好きが分かれる。

英国アリストンのツイード調ジャージー生地。一見ネップの入った本物のツイードに見えるが、この伸縮性はジャージーならでは。現在テーラーリング業界では、“縫えるジャージー”が大きな注目を集めている。

Q:おすすめのスタイル、デザインはどういったものか?
A:「ツイードに似合うものとしては、まず“パッチポケット”があります。胸ポケットまでパッチにすると、リラックスしていい表情になります。それから“エルボーパッチ”。今回松尾さんにお作りしたヴィンテージのピンチェック(ツーアンドツーチェック)のシェットランドは織りが甘いので、数年後ひじが抜けてきた場合に、パッチで補修するとぴったりでしょう。 “くるみボタン”もツイードならではの意匠です。ボタンの“足”の部分がレザーか金属かによって表情も変わってきます。襟にハンティング風の“ラペル・タブ”を付けたりすることもありますね。そういえばフィレンツェには“マレンマ”と呼ばれる前後に大きなゲームポケットが付いた伝統的なハンティング・ジャケットがあり、フィレンツェのサルトは作ることができると思います。ナポリには狩猟文化がないので、そういったものはないですね」

Q:堅苦しいジャケットが苦手だが、何かリラックスできるものはあるか?
A:「繰り返しになりますが、シェットランドやハリスなどざっくり織られた生地で柔らかく仕立てるのがよいでしょう。肩パッド等、内容物をできるだけ減らした、ウチならではのツイード・ジャケットを、ぜひお試しいただきたいと思っています」

左:フォックス ブラザーズの“ツイード”コレクション(480-510g)。今人気のソフトツイードを代表する銘柄。右:モロイ&サンズのドネガル(390/415g)。アースカラー中心。

左:アンダイドの生地2種。イタリア製ロロ・ピアーナの“ペコラ ネラ(黒い羊)”(370g)。右:英国製マーリン&エヴァンス。環境に配慮した生地は世界的傾向だ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 42
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