THE ART OF TAILORING

SARTORIA CICCIOに聞いた、100%失敗しないツイード・ジャケットの作り方Q&A

December 2021

スーツやジャケットを着る機会が減っている今、ツイードの人気が再燃している。
昔風の堅いものではなく、ふわりとしたソフト・ツイードが注目されている。
カジュアルに合わせやすく、長く着られるのが魅力だ。
気鋭のテーラー、サルトリア チッチオの上木規至氏に、最新事情を伺ってみた。
photography tatsuya ozawa

Noriyuki Ueki / 上木規至1978年、福井県生まれ。イタリア・ナポリの有名サルト、ダル クオーレやアントニオ・パスカリエッロなどで修業した後、2006年に帰国。タイ ユア タイ青山内に工房を持つ。2015年、自らのテーラー、サルトリア チッチオをオープン。ナポリスタイルを基本としつつ、独自の美学に貫かれたハウススタイルを確立。国内外に多くのファンを持つ。

Q:そもそもツイードって何だ?
A:「もともとはスコットランドで自分の家で織り上げた布のことです。ツイードは別名“ホームスパン(homespun)”とも呼ばれますが、これは“家で紡ぐ”という意味です。かつて布を織ることは寒い地域の農民や漁師の冬の間の仕事でした。パタンパタンと織り機で手織りしていたのですね。現代では太い紡毛糸をざっくりと荒目に織った生地の総称となっています。実はウチにも一枚だけ手織りのツイードがあります。ただしこれはわざわざ“HANDWOVEN”と記してあるくらいですから、わりと最近のものだと思います。数年前までは手織りだけのバンチ(生地見本帳)もあったのですが、今では見かけなくなりました。手織りのものは、機械織りとはぜんぜん違います。密度が甘く、ふんわりしています。今ではほとんど手に入らないので、どこかで見かけたら、絶対に購入しておいたほうがいいでしょう」

Q:ツイードの魅力は何だ?
A:「色と風合いでしょう。ツイードでしか出せない、独特の雰囲気があります。個人的にはしっかり織られているものよりも、甘く仕上げられているもののほうが好きです。空気を含んでいるようなふんわりした質感のものです。肩ひじ張らず、カーディガンを羽織るような感じで着られます。またそんな生地のほうが、ウチの仕立てには合っています。一方、がっしりとしたツイードは、肩パッドが入って、しっかりとウエストがシェイプされたブリティッシュなシルエットに似合うと思います」

Q:ツイードのオーダーは、どのくらい入るのか?
A:「ウチはまだあまり多くなく、年に5着程度といったところです。今までは、ジャケットでいいものをと言われると、カシミアなどをおすすめしがちだったのです。お客様は会社経営者の方が多く、仕事で使えるものとなると、どうしてもそうなってしまいます。しかし、今シーズンはツイードを絶賛プッシュ中です。現在仕事でスーツやジャケットを着る機会が減っているので、その代わりに、もっとカジュアルなシーンに対応できるアイテムをおすすめしています。それがツイードやコーデュロイのジャケットなのです」

THE RAKE JAPAN編集長・松尾が新調したツイード・ジャケットの最終フィッティングをする上木氏。秋冬のビジネス・カジュアルとして、ツイードに再び注目が集まっている。

Q:どんな種類の生地があるのか?
A:「代表的なものは、シェットランド、ハリス、ドネガル、チェヴィオットの4種類です。重さは400後半〜500g前半といったところでしょうか? まず“シェットランド”は糸自体の撚りが甘く、ふわっとした質感です。模様はヘリンボーンをはじめさまざまですが、色調もモワッとぼやけています。堅苦しいのが嫌いな人向けで、ウチの仕立てにも合っています。“ハリス”はハリスツイード協会というのがあって、いろいろな活動をしているので知名度はピカイチです。生地だけでなく、帽子やペンケースなど多くの商品が出回っています。ヘリンボーンやガンクラブ、無地などバリエーションが豊富で、皆ざっくりと織られています。注意しなければならないのは、硬い毛が混じっていること。これは人によってはアレルギーを起こすことがあります。敏感肌の人は必ず試してから買ったほうがいいでしょう。余談ですが、夏物であるフレスコ地も同じような症状を起こすことがあります。“ドネガル”は、ネップ(つぶつぶした節糸)が入っているのが最大の特徴です。糸の撚りが強く、生地は薄く感じられます。詰まり感があるのです。400gを切るものも多く、ウエイトが軽いのも特徴です。私はツイードでスーツを作りたいという方にはこれをおすすめします。織りが甘いとトラウザーズの膝が抜けやすいのですが、ドネガルならばそういうことは起こりません。“チェヴィオット”は、一番密な生地です。素材的にはスーツに最適なのですが、色柄的には難しいかもしれません。大柄で鮮やかな色遣いが特徴なのです。ピンクやオレンジのオーバーペーンなどもあります。太っている人は横柄が浮いてしまい、ますます太く見えるので、避けたほうが無難です」

Q:おすすめの生地バンチは何か?
A:「まずはフォックス ブラザーズの“フォックス ツイード”です。織りが甘く、柔らかい雰囲気で、ソフトツイードの代表銘柄です。色出しも渋めで、10年、20年と着られると思います。フォックスは『昔、こういうの流行ったよね』となるような生地は、絶対に出しません。フランネルが有名なブランドですが、ツイード、そして夏物のトロピカルやフレスコもいいのです。“モロイ&サンズ”は、アイルランドでもう5代も続くドネガルの代表的なメーカーで、日本に入っているのは、ほぼドネガルのみです。ここの色出しが好きですね。アースカラー中心で、ちょっとイタリアっぽいのです」

松尾のジャケットは、カジュアルな3パッチポケット仕様(胸と両前)」。生地はヴィンテージのシェットランドをチョイス。ふわりと軽く、着心地がラク。通気性もいい。

サルトリア チッチオに唯一残っていた手織りのシェットランド・ツイード(すでに売約済み)。機織り機のマークが興味深い。手織りのツイードは、今ではほとんど見られなくなった。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 42
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