MILITARY HERO: THE TORNEK-RAYVILLE TR-900

伝説のダイバーズウォッチ

September 2019

text james dowling
photography piers cunliffe, michal solarski/the watch club

退役後、30年に及ぶ海兵隊での軍務を詳述した著書『Sergeant Major, U.S.Marines』とTR-900。

 アメリカが核兵器を用いた最終決戦に備えていた頃、連合していたフランスとイギリスは、かつての植民地の独立紛争の渦中にあった。アメリカ統合参謀本部が認識していたところでは、フランスはインドシナの反乱軍に対し、第二次世界大戦の戦術を使おうとして敗戦。ほぼ同時期にイギリスはマラヤで勝利を収めている。アメリカはこうした状況から、中東やインドシナ、ラテンアメリカで共産主義者による反乱が広がっていることに気づき、手立てを講じなければと考えた。

 ケネディ大統領は1962年9月、アメリカが60年代末までに人間を月面に立たせると明言する有名な演説を行った。しかし、その3ヵ月前にニューヨーク州ウェストポイントの陸軍士官学校で、ケネディ大統領が卒業生に送った訓示についてはあまり知られていない。ケネディは、「もはや核の時代ではなく、むしろ反乱の時代である。アメリカ軍にはもっと特殊な戦力が必要である」と述べたのだ。それから数ヵ月後、米アメリカ軍はまさに特殊戦力を手に入れたのである。

契約の成立 アメリカ海軍のUDTは再編、拡大され、SEALs(Sea, Air and Land、シールズ)に名称を改めた。そして、アメリカ海兵隊のフォース・リーコン(武装偵察部隊)も大幅に拡大された。両部隊は作戦を共同展開することが多く、SEALsが海岸と潮汐を偵察する一方、フォース・リーコンの兵士は内陸へ移動して、敵陣の探索や後に続く部隊の進軍、退却ルートを調べた。

 特殊部隊の拡大に伴い、新たな装備品も登場した。当時最新鋭だったM16自動小銃は最初にSEALsに支給され、フォース・リーコンにはHALO(High Altitude Low Opening、ヘイロウ=高高度降下低高度開傘)パラシュート降下が採り入れられた。新しいダイバーズウォッチもそういった新装備の内のひとつである。これはSEALsおよびフォース・リーコンにも適した現代式のダイバーズウォッチで、自動巻きムーブメントや潜水時間を計る回転ベゼルを搭載し、かなりの深度でも耐えることができた。

 海軍の入札仕様書「MIL-W-2217.6A(SHIPS)」は、最大深度400フィート(約122メートル)でも動作可能であり、精度が日差30秒以内で、磁気帯びしない時計を求めていた。バイ・アメリカン法のもと、この仕様書はアメリカの大手時計メーカーであるエルジンとハミルトン、ウォルサムに伝達された。しかし、要求が高すぎるだけでなく、最初の発注数量はわずか1000本だったため、どのメーカーも採算が合わなかった。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 29
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