HOBBITUARY: ANDY SERKIS

人間以外を演じるスペシャリスト:アンディ・サーキス

November 2022

モーションキャプチャという先端のデジタル技術で役を演じる第一人者、アンディ・サーキス。特殊スーツの下に溢れるその人間性の一端に触れた。
text scott harper
photography charlie gray
fashion direction grace gilfeather
special thanks to Rosewood London

Andy Serkis / アンディ・サーキス1964年、ロンドン生まれ。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでゴラム役をモーションキャプチャで演じ脚光を浴びて以降、その技術を取り入れた作品に欠かせない俳優に。『キング・コング』(2005年)、『猿の惑星』の新シリーズ、『スター・ウォーズ』シリーズなどに出演。もちろん自身の顔の演技でも活躍するほか、近年は監督業にも取り組んでおり、『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021年)が話題となった。

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 アンディ・サーキスは過去20年間、図らずもスクリーンの演技を再定義してきた人物である。もっとも、彼はそれが自分の功績だとは認めないだろう。

「ラッキーだっただけかな。大勢の人が誰かをF1マシンに乗せようと説得している間に、私が横からマシンに乗り込んで行ってしまったようなものだよ」

 彼らしい明るく謙虚な態度は、Zoom画面越しにもはっきりと伝わってくる。

 ハリウッド大作におけるスタッフの数は平均600人ほど。だが、サーキスがモーションキャプチャで演じる作品は特別だ。彼がゴラム役を演じた『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ(2001−2003年)では、トラックサイドエンジニア、メカニック、パーソナルトレーナー、空気力学のアナリストなどを含めて、製作スタッフは2,400人を超える。エキストラは2万6,000人。さらに4万8,000の鎧、1万本の矢、500本の弓、1万頭のオークの頭、そして1万9,000着の衣装などを使用し、小道具類のすべての関係者も含めると、膨大な人数のチームであった。

「私は最終的にアニメーターや視覚効果アーティストともやり取りするようになった。彼らスタッフは、もはや出演者と同様のファミリーと呼べる存在になったよ。この経験でモーションキャプチャという新技術がよく理解できたから、ピーター・ジャクソン監督と次のプロジェクト『キング・コング』(2005年)に着手することになったんだ。モーションキャプチャはこれからどう進化していくのか予測がつかないけれど、役者を最も自由に解き放つツールだと思ってる。何にだってなれるんだからね。ファンタジーも表現できるし、役者を20歳若返らせたり、逆に老けさせたりすることもできる。デジタル時代の到来が、映画の作り方や監督のビジョンを大きく変えたことは間違いない。でもバスター・キートンの『キートンの大列車追跡』(1926年)や、1933年の『キング・コング』、『アルゴ探検隊の大冒険』(1964年)だって、当時としては画期的だった。今起こっていることは、そういう考え方の進化だ。人は皆、常に想像したことをリアルに再現したいと思ってきたんだ」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 47
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