July 2019

GOOD to be HOME

アメリカンドリーマーが築き上げた驚愕の邸宅

イスタンブールにあるパシャの御殿を連想させる長椅子が印象的なメディアルーム。ロロ・ピアーナの毛皮が長椅子を優美に飾っている。

 館は建設以来、幾度となく手が加えられていたが、幸いなことにノルマン様式を基調としながら、ゴシック様式とチューダー様式を色濃く残す構造は変わらなかった。従って、現代の家族の生活様式に合わせたリノベーションを行いつつ、建築の伝統を保護することを目指した。これには細心の注意と大規模な調査を要した。まず館が建設された1930年代を振り返ることが出発点となった。歴史通の方ならば、当時は裕福なアメリカ人がヨーロッパへ旅行し、思想、装飾、スタイルを次々と持ち帰った時代であったことをご存じだろう。この館もまた、例外ではなかった。

 トミー ヒルフィガーの特徴でもある「コントラスト」は、ラウンド・ヒルの随所に取り入れられている。例えば、地所自体はトミー氏曰く「田舎のエリアにある」が、3階のオフィスからは、遠くできらめく賑やかな街の明かりを垣間見ることができる。また、この館の中心を成すキッチン周りには最新の電化製品と設備が整えられている。このバランスの見極めこそが、最大の成果だった。

 壮麗な館に釣り合うことを求められる屋外空間も見事である。目指したのは、多彩な体験を生み出す空間。夕食を終えた家族が庭園を散歩し、広い芝生の上で心休まる自然の音に耳を傾けてピクニックを楽しむ光景。「つまり建設当時の庭園の姿を想像し、それを取り戻す、という驚くべき作業でした」とディー氏は語る。

 6年近くかけてついに完成した邸宅は、あらゆる面で期待を上回るものだった。美術品や装飾品で荘厳さを漂わせる一方、温かさと心地良さに満ちたこの館は、何世代にもわたって親しまれる場所になるに違いない。やはり我が家はいいものだ。

グランドホールにあるチューダー様式の暖炉。シュヴァルツヴァルトの狩猟記念品が壁を飾る。

パシャペイズリー柄の毛織物が壁面を覆うダイニングルーム。壁の静物画はオランダの巨匠によるもので、シャンデリアは1760年頃のオランダの銀細工品。床にはアンティークのペルシャ絨毯が敷かれている。椅子とテーブルは19世紀のイギリスの建築家、オーガスタス・ウェルビー・ノースモア・ピュージンによるもの。椅子に張られた赤いモロッコ革は制作当時のままだ。テーブルにはヴィンテージのロイヤルドルトンの皿と、ティファニーの銀食器がセッティングされている。エッチングを施したベネチアングラスが、バイエルン地方のゴブレットと入り交じる。手刺繍をあしらったリネンは、イタリアのポジターノへ旅したときに見つけたもの。

安らぎに満ちたグランドホールは夫妻のお気に入り。手細工で作られたオーク製の階段はこの館に元々あったもので、彫刻を施した壁板や窓に囲まれている。部屋の中心を占めるのは、19世紀初期のライブラリーテーブル。イギリス人貴族のカントリーハウスから調達された品だ。天井の木梁の間には、人工皮革に絵柄を描いた優美なオランダ製パネルをはめ込み、鉄製のアンティークシャンデリアを吊り下げている。奥にはスタインウェイ&サンズのピアノがあり、夫妻と親交のある多くの音楽家を歓迎するスポットになっている。

主寝室の寝具類は刺繍を施した特注品で、ベッドカーテンはホーランド&シェリー社の生地。出口の向こうには、かつてアンディ・ウォーホルが所有したラグが見える。

THE RAKE JAPAN EDITION ISSUE 21
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