July 2018

AN AFFAIR TO FORGET

セックス、ドラッグ、死、そして“甘い生活”

text nick scott

映画『甘い生活』のラストシーンでのマルチェロ・マストロヤンニ。乱痴気騒ぎを終え、朝を迎えた退廃的なジェット族の一団が、海岸に打ち上げられた巨大な魚を発見するというエンディングは、モンテージ事件をきわめて象徴的な形で示唆していた。

 ローマに居を定めた後は、多くの高位者の肉欲を満たすことを目的に、いかがわしい女性たちを自宅に頻繁に招いていた。戦時中、この高位者とはナチスの幹部だったが、常に長いものに巻かれるタイプだったモンターニャは、戦争が終わると勝者である連合国側に鞍替えした。さらに報告書によると、モンターニャは第三帝国やOVRA(ファシスト政権下のイタリアの秘密警察)のために諜報活動までしていたという。これにより、共産党の日刊紙で厳しく批判されることになった。

 だが、カラビニエリの包括的な報告書も、膨大な時間を費やした裁判も、ウィルマ・モンテージの身に具体的に何が起きたのかを明らかにすることまではできなかった。謎は今でも解明されていないのだ。この事件の全容に関する真実を知ることは不可能だとしても、モンテージ事件は当時を顧みる現代人に多くのことを教えてくれる。

 有力なエリート権力者たちの“甘い生活”の下に、じめじめした暗部が潜んでいるケースがいかに多いのかということ。そして、インターネットが登場する何十年も前に、政治や司法がパパラッチ行為といかにして結び付いたのか、ということだ(ちなみに、“パパラッチ”という語は、『甘い生活』に登場するカメラマンの名前、パパラッツォに由来している)。

 今日の政治家にとって重要なことは、民主主義におけるこの最大級のスキャンダルが、今ではほとんど語られていないという事実だ。世間に恥をさらすのはほんの一時である。シルヴィオ・ベルルスコーニも安心していいかもしれない。彼の悪名を数十年先までしっかり覚えているのは、おそらく波瀾万丈なイタリアの歴史を知り尽くす、ほんのひと握りの学者くらいなのだから。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 23
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