September 2022

THE RAKISH SHOE FILE 010

水落 卓宏氏:服にも靴にも、求めるのは“説得力”

歴史が育んだ正統に多大な敬意を払う水落氏の靴選びは、ピンと一本筋が通っている。
一流アルチザンを唸らせた“説得力ある靴”とはいかに?
text hiromitsu kosone
photography kenichiro higa

Takahiro Mizuochi「Dittos」代表
1970年生まれ。日伊の超有名テーラーを経て2009年にディトーズを設立。着用しているのはテーラー&ロッヂに別注した260g/mのソラーロによるスーツとヨウヘイ フクダのリザードローファー。「色気のあるソラーロにリザートという組み合わせが好きで、私にとって春夏の定番スタイルになっています」

 水落氏の話はハッとさせられるほど明快で、かつ深い。それは氏が100年以上にわたる紳士服の歴史を丹念に紐解き、史実に基づいた鉄壁の理論を自らの中に構築しているからだ。試しに「ディトーズのゴージラインはなぜ低めなのか」と尋ねてみてほしい。思わず膝を打つはずだ。

 今回、氏の靴選びにおける基準を伺うと、「それは“説得力”です」と即座に答えが返ってきた。

「クラシックを愛好する方なら皆さんそうだと思いますが、私もシンプルで普遍性のある靴が好みです。しかし、シンプルなものほど“説得力”が重要だと思っています。これは私の服作りにも共通するテーマですね。私にとって最初の“説得力ある靴”は25年以上前に購入したマスターロイドでした。私は足が極端に華奢で、既製靴はまず合いません。なので、当時はある程度妥協してサイズを選んでいたのですが、ロイドを訪ねると“あなたに合う靴はウチにありません“とバッサリ。かなり面食らいましたが、ならばとカスタムオーダーを注文したところ、かつてないフィット感を味わえたのです。そしてさらなる衝撃はヨウヘイ フクダ。既製とは別次元の履き心地に加え、彼がいかに英国の伝統へ敬意を払っているかがひしひしと伝わってきて、これ以上ない説得力を感じました。ウエストンに関しては、“ローファーの代名詞”という一言に尽きますね。こちらも足に合わせてオーダーしたものです」

 確固たる芯を持っているからこそ、選ぶ靴にもブレがない。水落氏の一貫性がよく表れた3足だ。

すべてオーダーで
フィット感を追求
右:2016年にビスポークしたリザードローファーは3足めのヨウヘイ フクダ。「いい革を探してもらうところから始めてじっくり作ってもらいました。デザインは“昔のフォスター&サンのイメージで”とリクエスト」
中:Cウィズでオーダーしたマスターロイドはエドワード グリーン製。「足に合った靴は履きシワすらも美しい。そのことを教えてくれた大切な1足です」
左:ジェイエムウエストンのシグニチャーローファー #180は2018年にオーダー。「私にとって、コインローファーといえばウエストン。豊富なウィズから選べるので、足が華奢な私でもジャストな1足を作れました。ちなみに、白く見える部分はクリーム色。真っ白よりもコントラストが弱まって合わせやすいんです」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 46

Contents