期待の新星、AKIRA TANI

フィレンツェ クラシックの
正統を継承するビスポークシューメーカー

May 2020

旧きよき時代のイタリアのハンドメイドシューズの薫りを残す。
と同時に、フォルムにはフィレンツェの靴ならではの色気が宿る。
フィレンツェ在住の日本人ビスポークシューメーカー、谷 明。
text & photography yuko fujita
issue10

サンタクローチェ地区、リストランテチブレオからすぐのところにある自宅の一室を工房にしている。ベランダ付きで風通しがとてもよく、朝から晩まで籠っていても仕事に追われている感じはしない。疲れたときはバールにカッフェを飲みに行くだけで息抜きになるという。

 お気に入りはセルジオ ゴッツィ。世の美しい女性を魅了してやまないセルジオロッシではなく、セルジオ “ゴッツィ”。サン ロレンツォ聖堂のすぐ脇にある、相席御免、昼営業のみの、フィレンツェで1、2を争うほど力強い料理を出す食堂だ。お気に入りのメニューはタリアテッレ アルランプレドット(牛の第4胃袋を煮込んだソースをかけたタリアテッレ)。1915年から続く店はいつも満席で、料理はどれもシンプル&豪快。フィレンツェ人の胃袋を鷲摑みにしている。そこでの食事こそが、谷 明氏の活力の源だ。

 2012年、ビスポークシューメーカーになることを目指してフィレンツェに渡った。最初はSAKというシューメーカーで経験を積み、2013年11月、ずっと憧れていたステファノ ベーメルに入社して約5年半の経験を積んだ。そして昨年4月、満を持して独立。サンタクローチェ地区の自宅の一室を工房にして“AKIRA TANI”を始動させた。するとたちまち、世界中の錚々たるウェルドレッサーたちから注文を獲得。一躍大人気となった谷 明氏は、その実力、人柄を含めてTHE RAKEが自信をもってオススメしたいビスポークシューメーカーである。

 カラダの線は細いが、“ゴッツィ飯”で鍛えられているだけあって信念は極太だ。靴作りにおいては一切の迷いなく自身のスタイルを確立していて、自信をもってまっすぐ前へ突き進んでいる。力強さに満ち、媚びることなく、気高い。いうなれば、アキラ タニの靴は、セルジオ ゴッツィの料理そのものだ。

 伝統を大切にした職人としてのメンタリティはローマだと往年のガットやランピン、ミラノだとメッシーナあたりと近しいように思えるが、フォルムはそれらと大きく異なり、フィレンツェの靴らしいちょっとした色気を宿している。ただ、男らしさに満ちているという点では、両者は共通している。

 ステファノ ベーメル的な雰囲気があるかについては、ベーメルがまだフィレンツェローカルのテイストをプンプン漂わせていた初期の作品からの影響が感じられる。いずれの点からも、インターナショナルな薫りよりもイタリアの土着性のほうが勝っているところが、アキラ タニの魅力である。

本記事は2020年3月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 33

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