September 2016

STREET SMART

英国のサブカルチャーA to Z

テディボーイ、モッズ、スキンヘッズ、ルードボーイなどなど。戦後のイギリスでは、数々のサブカルチャーが生まれた。労働者階級の週末の闘士たちは、音楽、ファッション、そしてアティテュードを通して、自分たちが“特別な存在”だと証明しようとした。彼らのひたむきなまでのスタイルへの情熱は、現代に生きるわれわれも、見習うべきところであろう。
text charlie thomas

 パンクからニュー・ロマンティックまで、英国の若者たちに広まったさまざまなサブカルチャーの中で、際立っているものがいくつかある。1950年代のテディボーイ、60年代のモッズ、70年代のスキンヘッズなどだ。これらはお互い結びついており、今では20世紀の重要な社会的ムーヴメントに数えられるようになった。

 こうした集団のメンバーたちは、ほとんど例外なく労働者階級の子供たちで、彼らは戦後復興期のイギリスにおいて、音楽、ファッション、そしてアティテュード(ふるまい、態度)によって、その他の人々と、自分たちを区別しようとした。

 こうしたスタイルとそのディテールへのこだわりは、THE RAKE読者にも身に覚えのあるものであろう。それがこれらユニークなサブカルチャーを、ここでさらに深く掘り下げる理由である。

変わりつつあるスーツ ラウンジ・スーツは長い間、男性のシンボルであり、エレガンスとよき趣味、そして社会的地位を示すものとなっていた。スーツを着ている男性は尊敬に値し、社会において重要な役割を担っており、紳士たる者と見られていた。『シャープ・スーツ』の著者、エリック・マスグレイヴは言う。

「衣服は常に富と権力を表すものであり、何世紀にもわたって、国家の社会的規範とドレスコードは、法廷によって規定されてきた。それらは当時、文字通り男たちのリーダーだった貴族たちによって普及されてきた」

 ところが、最近のTHE RAKEでも取り上げてきた通り、現在スーツは変わりつつある。それはもはや、かつてのように身を護る鎧ではないし、制服的な意味合いは、既製服の増加とドレスコードの崩壊のおかげで小さくなりつつある。今日の男性たちは快適さを求め、ファッション界は、エキゾチック・レザーのスニーカーや高性能ジャージー素材でできブレザーのような、ハイブリッド・アイテムで溢れている。

 ときには、スーツからあらゆるフォーマルな意味合いが取り除かれていることもある。いくつかのブランドは完全にアンコンストラクテッドな“スーツに見える、スーツの類似品”を生み出している。かつてはありえなかったスーツの着こなしも可能となった。しかし、こうした衣服革命が起こったのはこれが初めてのことではない。スーツは過去何年にもわたって、もとの文脈から離れてきたのだ。

はじまりは、テディボーイ モッズほど記録に残っているわけではないが、50年代の“テディボーイ”たちも影響力の大きなサブカルチャーであり、それ以降のムーヴメントに続く道を開いた。エドワード時代スタイルのドレープ・ジャケットに、ハイウエストでツープリーツのパンツ、シルクのウエスタン・ボウタイがユニフォームだった。音楽はハイビートのロックンロール。そして最も重要だったのは、あらゆることにおいて、イギリスの伝統を無視することだった。

「第二次世界大戦後、古い社会的区分が崩壊しはじめたのにしたがって、一部若い労働者階級の男性たちは、新しいアイデンティティを表現した」とマスグレイヴは表現している。

 エドワード時代の上流階級の人々の衣装を取り入れることで、労働者階級のテッズは、社会の上層の人々に中指を立てた。以前は富とエレガンスを象徴していたスーツを着て、彼らの反逆性を表現したのだ。

 しかしテディボーイの広がりは限られており、スーツを新しいレベルに引き上げるところにまでは至らなかった。それは彼らを継承する者=“モッズ”によってなされたのだ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 10
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