September 2016

STREET SMART

英国のサブカルチャーA to Z

text charlie thomas
issue10_P81_1

コヴェントリー・オデオンの屋根の上で撮影された“ザ・スペシャルズ”。中央はボーカルのテリー・ホール。1979年。

反逆から生まれたスタイル 初期のモッズたちは、モダンジャズの音楽だけではなく、演奏するミュージシャンたちのスタイルも愛した。マイルス・デイヴィス、ソニー・クラーク、リー・モーガン、ハービー・ハンコックといった巨人たちは、どうやって自分をクールに見せるかも心得ていた。アイビーリーグのスタイルが、彼らの装いのメソッドだった。

 オックスフォード製のボタンダウン・シャツ、サックスーツとペニーローファーという装いのコードは、50年代前半に、アメリカの一部の名門大学のキャンパスで考案されたものだ。しかし、アイビーリーグは、アメリカの富の象徴であり、社会的排他主義者の牙城でもある。ジャズ・ミュージシャンたちは、彼らを差別する側のスタイルを、あえて自分たちのものとして採用したのだ。

 音楽ジャーナリストのパオロ・ヒューイット曰く、「マイルス・デイヴィスのアイビーリーグ・ルックの使いかたは、現在に至るまで史上最高のファッション表現のひとつだ。彼らの音楽、彼らの肌の色を激しく見下している人々の衣服を身につけることで、マイルスと彼の仲間たちは美しく敵を演じ、敵のあいだを歩き回ることで風景を永遠に変えてみせた。マイルスを知らない人は、彼が銀行員だと思うだろう。マイルスはシルクとモヘアに身を包んだ、革命家だったのだ」

 これはモッズの持つ武器のうちの、たったひとつにすぎない。他にもヨーロッパ大陸、とりわけフランスとイタリアにインスピレーションの源があった。

 現在でさえ、フランス人とイタリア人の装いには、どこか自然なかっこよさがあるが、60年代前半のイギリスの労働者階級の若者たちにとって、大陸のファッショニスタは、まるで宇宙人のようなものだった。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 10
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