From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

英国紳士に叩き込まれたスタイル
上月剛さん

Monday, November 25th, 2019

上月剛さん

メルボメンズウェアー テーラーフィールズ販売部 担当部長

text kentaro matsuo  photography tatsuya ozawa

メルボメンズウェアーの上月剛さんのご登場です。メルボメンズウェアーはその前身を平野屋といい、その創業は1918年まで遡ります。一世紀もの歴史を誇る、老舗アパレル・メーカーです。

2005年には、テーラーフィールズを立ち上げました。テーラーフィールズは、高品質のスーツを低価格で提供するオーダーメイド専門店です。なんと1着¥23,000〜という驚きの値段でスーツを提供しています。なぜこんなに安いのでしょう?

「テーラーというのは、普通お客様にバンチ(見本帳)から生地をお選び頂き、その都度生地を問屋から取り寄せているのですが、ウチはすべての生地を自社で一括購入し、在庫として持っています。ですからチョイスの幅は狭まりますが、価格は安くすることができるのです。またメルボの自社工場のみならず、国内外の提携工場を使って効率的な生産をしていることも大きいですね」

 スーツはテーラーフィールズで自ら作ったもの。

「生地はイタリア製、ヴィダーレ・バルベリス・カノニコのフランネル。本水牛ボタン、本切羽など、ひと通りの本格的な仕様を備えつつ、これで価格は¥49,000です。どうです? そうは見えないでしょう(笑)」

うーむ。どう見ても、アンダー5万円には見えないですね。これにはちょっと驚きました。

「本体の値段は¥23,000から1万円刻みでお選び頂けます。これは¥43,000のモデルで、ここからインポートの生地も選べるようになります。¥63,000では、ゼニアの生地も選べるんですよ。仕様もプラス¥6,000で“てんこ盛り”にできます」

シャツもテーラーフィールズ。コットン100%、ラウンド・カラーのクレリック・カラーという凝った仕様で、¥12,000だそう。ただしラウンド・カラーは来春からの展開。

「今、自分で試しているところです」

 

タイもテーラーフィールズ。

「伊コモのシルクメーカー、カネパ社へ行って、自ら色出ししてきたシルク地です。同じものは¥5,500でお求めになれます」

 時計はロレックス、エクスプローラーⅠ。

 

薬指のリングはカルティエ。小指のリングとブレスはエルメスで、ふたつともお母様から譲り受けたものだそう。

「私の母はとてもお洒落な人でした。毎日違う服装をしているので“この人、どのくらい服を持っているんだろうなぁ”と不思議に思ったのを覚えています。私は新潟県・上越市の生まれなのですが、よく東京へ連れて行ってもらい、いろいろなものを買ってもらいました。その影響で小学生の頃には、すでにファインボーイズやメンズノンノ、チェックメイトなどのファッション誌を読んでいました」

黒のスエード・シューズはチャーチ。

「コレ、実はラバーソールなんですよ。昔はイチビって“レザーソール以外、靴じゃねえよ”なんて言っていましたが、今では機能的なほうがいいと思うようになりました。あ、イチビるってわかりますか?」

全然わかりません。

(イチビるとは、近畿地方で「カッコつける、ふざける」という意味で使われる俗語だそうです)

 

私が上月さんと知り合ったのは、同社メルボがまだ英国サヴィル・ロウの王室御用達テーラー、ギーブス&ホークスを手掛けていた頃ですから、もう20年以上前になります。上月さん自身のスタイルも、当時G&Hの直系五代目だった、故・ロバート・ギーブ氏に叩き込まれたものだといいます。

「ロバート・ギーブ氏は、信じられないほど厳格にルールを守る人でした。そしてこだわりも人一倍強かった。例えば、スーツにはダブルカフスのシャツしか着ないのですが、そのカフの折返しの部分にいつも小さなハンカチのような布を入れているのです。そして食事中、口を拭う際にそこからさり気なく布を取り出して口もとを拭き、またそっと元へ戻すのです。曰く『ハンカチを探して、手を体の前でゴチャゴチャと動かすのは、紳士として見苦しい』と(笑)。『ブレイシズを使う時は、必ずウエストコートと合わせよ。サスペンダーは、決して人前では見せてはいけないものだからだ』とも。だから彼は、スーツはスリーピースとダブルしか着ませんでした。とにかくすべてがこんな調子でしたね。しかし大いに勉強になったのは事実で、これが本物の英国スーツなんだと感心しました。今でも私のベースとなっているのは、この時代に学んだことです」

 

次の春夏シーズンから、上月さんがディレクションしたテーラーフィールズの新しいコレクションがスタートします。

「スーツは、かつて“ラウンジスーツ”と呼ばれていました。本来はとても機能的な服なのです。そこで完成されたデザインはそのままに、より進化したスーツをご提案したいと思っています。“ジャーニー・コレクション”という名の、パッカブル・スーツです。素材は、一見ウールに見えますが、実はポリエステル100%。伸縮性が高く、強度に優れ、雨も弾くため、バックパックや自転車通勤にぴったりです。形はスーツだけれど、裏でスゴいことをやっている、そんなイメージです」

実は最近私も自転車通勤で、しかもスーツを着なければならない場面が多いため、これは期待してしまいます。サヴィル・ロウ仕込み、上月さんのお手並みを拝見致しましょう。

 

 

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