From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

靴磨き日本一の驚くべき半生
石見豪さん

Friday, January 25th, 2019

石見豪さん

 THE WAY THINGS GOオーナー、シューシャイナー、カラリスト

text kentaro matsuo  photobraphy tatsuya ozawa

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シューシャイナーの石見豪さんのご登場です。2018年に開かれた第1回靴磨き日本選手権にて見事優勝され、日本一の靴磨き職人として表彰されました。その後はテレビや雑誌に引っ張り凧となり、『マツコ&有吉のかりそめ天国』や『ゲンバビト』など多くの人気番組に出演されたので、ご存知の方も多いと思います。道を歩いていると、「あ、この間テレビに出ていた人!」と声をかけられることも増えたとか。

 

「日本一になってよかったと思うことは、会いたかった人に会えること」

先日は、なんと安倍総理大臣に直接会って、本人の靴を磨いてきたそうです。すごいですね!(ちなみに総理の愛用靴はエドワード・グリーンだったとか)

 

「靴磨き選手権で勝つにはどうしたらいいか、真剣に考えました。たった20分の持ち時間で一足の靴を仕上げなければならなかったため、他の出場者はツヤ出しに専念するだろうと読みました。そこで私はクリーニングからポリッシングまで、すべてをやり遂げ、かつ他の人に負けないほどピカピカにすることを目指しました。そのために何度も練習して、本番に臨んだのです」

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決勝戦の動画は、こちらにて御覧になれます。

工程が多いにもかかわらず、石見さんの動きは、ライバル二人に比べると、ゆったりとエレガントに見えます。

 

「靴磨きは、仕上がりはもちろん、その“所作”がとても大事なのです。例えば指に布を巻く時も、前からなのか、後ろからなのか・・どうすれば美しく見えるか、自分の姿をビデオに撮って、動作を研究しました」

 

目標を立て、それに向かって、ひとつひとつ課題をクリアしていくことが得意だと語ります。そういった戦略的なやり方は、ある驚くべき経験から生み出されたものなのですが、その話は後ほど・・

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スーツは、ヴィンテージのH.レッサーで仕立てられたTHE WAY THINGS GOのオリジナル。アカミネロイヤルラインやカモシタなどと同じファクトリーにオーダーしたもので、TWTGのユニフォームとなっています。

「本当に欲しいスーツは、100万円くらいします。しかし手が出る範囲だと、なかなかしっくり来るモノがなかった。それならば自分で作ってしまった方が早いかな、と。肩周りはフルハンドで、靴磨きをする際に腕が動かしやすいよう工夫してあります。もちろん日常生活でも快適です。ラペルの幅やハイウエストでインタックのパンツなど、細かいところまでこだわりました」

着用していると、同じモノが欲しいというお客さんが引きも切らず、近々商品化するそうです。

 

タイはドレイクス、シャツはギ・ローバー、チーフはロダ。

「3年前に大阪店をオープンした時に頂いたものです。今回、東京店をオープンするにあたり、再び身に着けてみました」

東京店の場所は、なんとユニオンワークス渋谷店のあったところ。運営を引継ぎ、TWTG×UNION WORKSとして開店しています。靴ファンの聖地です。

 

メガネは、バーレー・ネルソン。オーストラリアのメガネ・ブランドで、日本にはまだ入って来ていないそうです。豪州へ行かれる方はお土産にぜひ。

 

そしてシューズは、イタリアのリッカルド・フレッチャ・ベステッティのビスポーク。かつてはTWTGでもトランクショーを行いましたが、「トラブルが多すぎて、止めた」そうです。

「それでもこのモデルは、40足はご購入いただきましたよ」

ナチュラルかつ透明感のある仕上がりは、流石です。

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さてここから、石見さんの驚くべき半生を開陳しましょう。

「父を早くに亡くしたので、母は三人の子供たちを養うため、必死に働いていました。しかし私が18歳のときに、4000万円もの借金を背負わされてしまうのです。当時私はミュージシャンを夢見ており、一日にギターを13時間も弾いているような少年でした。当時の仲間には、フジロックに2回出場したような人もいます。しかし家族の中で働けるのが私だけだったため、夢を諦め、就職することにしたのです」

 

そして飛び込んだのが、英会話教材を売る仕事。道端でいきなり人に声をかけてアンケートを取り、後日電話をかけてセールスをするのです。

「朝6時半に出社して、夜1時まで働きました。一日1000人に声をかけても、アンケートが取れるのはせいぜい50人程度。完全歩合制だったので、どうしたら立ち止まってもらえるのか、どうやったらうまくプレゼンできるのか、必死で考えました。自分の笑顔を録画して、研究したのもこの頃です」

どんな世界にもコツがある、との言葉通り、何回もトライアンドエラーを重ねるうちに成績が伸びて、10年後には、ついに借金を完済できたそうです。

 

「ところがお金を返し終わったら、突然目的を失ってしまい、いわゆる“燃え尽き症候群”になってしまったのです。もう何もする気が起きず、会社も辞めてしまいました。まったく違う業種で独立しようかな、などとぼんやり考えていました」

 

そこでふと目に留ったのが、近所に靴磨き専門店が開店したとのニュース。

「家から歩いて3分ほどのところだったので、ちょっと行ってみようかなと思い、オールデンの9901を片手に訪ねてみました。生意気ですが、さらに拘ったサービス提供が自分なら出来ると思い立ち、路上で靴磨きを始めました」

 

路上セールスに慣れた石見さんにとって、路上靴磨きなど“へ”でもなかったでしょう。

「私の靴磨きは全くの独学です。さまざまな専門店へ行って、やり方を見て『このタイミングで水をつける』とか、秒単位、グラム単位でメモを取り、試行錯誤を続けました」

その後出張専門になり、さらに店もオープンさせ、3年間で2万足を受注する大ヒットへと繋がります。

 

「セールスの経験はタイへンでしたが、私に目標を設定し、それに向かってきちんと計画を立て、ひとつひとつ遂行することの大切さを教えてくれました。それは今でも大いに役立っていると思います。それに私には、職人気質な“極めグセ”があり、何でも“できるまでやる”ことが好きなのです」

 

う〜む、やはり日本一になる人は違いますねぇ。

 

そんな石見さんに、今後の夢を伺うと、驚きの答えが。

「たこ焼き屋をやりたいと思っているのです。大阪生まれの私は“粉モノ”が大好きなのですが、東京のたこ焼きはイマイチです。私が“炎タコ”(大阪人愛用の家庭用強力たこ焼き器)で焼いたもののほうが絶対ウマい。もちろんすべて秒単位、グラム単位で調理します(笑)」

 

「目標は5年後のオープン」と仰っていましたが、こちらも大ヒット間違いなしだと思います!

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