THE RAKE VISITS: FREDDIE GRUBB
ロンドン発、洒落者自転車:フレディ・グラブ
March 2023
ロンドンで、そのスタイリッシュさから話題になっている自転車ブランドがある。フレディ・グラブである。この名前は、かつて存在したひとりのオリンピック選手と、彼が製造した美しい自転車に由来するものなのだ。
by chris cotonou
photography brandon hinton
フレデリック・グラブは、1912年のストックホルムオリンピックで活躍した英国のサイクリストである。1914年の引退後、ロンドンで自転車の製造を始めた。彼の自転車は、その美しいデザインによって知られていた。しかし1949年に彼が亡くなると、その名前はほとんど忘れ去られてしまった。
しかし2015年、グラブの名前は復活した。家具サプライヤーであり、熱心なサイクリストでもあるマルコム・ハーディングが、新しいブランドにグラブの名を冠したのである。ハーディングはTHE RAKEにこう語った。
「グラブの名前を守り、彼の誇りになるようなものを作りたかったのです。ヴィンテージのグラブをコレクションしているので、基本的なデザインは往年の自転車を参考にしています」
彼らの事業は、ミラノのデザインフェアで、日本の自転車ブランド、トーキョーバイクのオーナーに偶然出会ったことから始まった。
「彼らは自分たちの自転車をロンドンで販売したいと望んでいました。その手伝いをした後、私たちもやってみようかと思ったのです」
ロンドン北部のイズリントンでショップを開いたところ、フレディ・グラブの自転車が欲しいというお客さんが続出したのだ。
「中には、自分のヴィンテージ・グラブで訪れた人もいました」
各シリーズにはユニークな名前が付けられている。シティを流れる「FLEET(フリート)」など、あまり知られていないロンドンの小さな川の名前が使われているのだ。
「私たちはロンドンのブランドです。サイクリストとして、この街を表現したかったのです」
ヘリテージにこだわることは、ハーディングと彼のチームにとって重要だ。フレディ・グラブのデザインは、まさに英国的なものだが、英国以外の国からも支持されている。
「ドイツやフランスからの関心も高いです。なぜなら、かつての英国デザインの優秀性が再評価されているからです。私たちはそれを守っていきたい。工房は南ロンドンのデプトフォードとケンブリッジにあります。自転車は1台ずつ手作業で作られ、色やスタイルのオーダーメイドも可能です」
このブランドはハーディングにとって、いろいろな意味で個人的なものだ。自転車は使い捨てではなく、ひとつひとつに番号が振られ、彼が慣れ親しんだヴィンテージのグラブのように大切に受け継がれ、愛されるための作品なのだ。
「昔ながらの物作りです。商品は長持ちするよう作られています。最近のマーケットに溢れている安物のように、数ヶ月で壊れるようなことは決してありません」
フレディ・グラブは紛れもない英国のブランドだ。ハーディングは英国のデザイナーや職人が、世界を相手に物作りをしていた時代の精神を受け継いでいる。
THE RAKEとフレディ・クラブがコラボした自転車がもうすぐ発売される予定だ。テーマは「街を行く人のための伴侶」。長い間待ち望まれていた一台となるに違いない。