Interview - Fairmont Tokyo General Manager, Mr. Karan Singh
“自分らしくいられる”という贅沢──フェアモント東京が示す次世代のラグジュアリー
July 2025
一世紀以上にわたりイギリス王室をはじめとする世界の王族や著名人を迎え、数々の歴史的な瞬間の舞台となってきた「フェアモント ホテル&リゾート」。世界中に90を超えるホテルを展開する同ブランドが今夏、日本初の「フェアモント東京」を開業した。総支配人として新たなホテルを率いるのは、アジア太平洋地域で卓越したリーダーシップを発揮してきたカラン・シン(Karan Singh)氏。深い情熱を持つ敏腕ホテリエに、名門ホテルの魅力とラグジュアリーホテルの行方について話を訊いた。
text chiharu honjo
カラン・シン
フェアモント東京 総支配人
パシフィック‧インターナショナル‧ホテルマネジメント卒業後、25年以上にわたり数々のラグジュアリーホテルを歴任してきた経験豊富なホテリエ。カスタマーエクスペリエンスと収益化の実現において手腕を振るった実績から、2016年にコンラッド大阪の開業総支配人に抜擢。その後、ザ‧ダナ‧ランカウイ(マレーシア‧ランカウイ島)で総支配人とエリア統括を務め、2024年日本初上陸のフェアモントホテル「フェアモント東京」の総支配人に就任。ホスピタリティ業界を牽引してきたそのリーダーシップと情熱を、フェアモント東京の開業でも発揮する。
客室は、鮮やかなオレンジ系の差し色がエレガント。写真88㎡の「フェアモントゴールド スイート」。
⽇本初上陸となる「フェアモント東京」 が、東京・芝浦の大規模複合開発「BLUE FRONT SHIBAURA」のTOWER S高層階(35〜43階)に7月1日誕生した。東京湾のほとりに位置し、東にはレインボーブリッジ、西には東京タワーを望む絶好のロケーションだ。館内には、29のスイートを含む217の客室があり、ホテルの中のホテルと称される「フェアモントゴールド」、5つのレストランと2つのバー、スパ、屋内インフィニティプール 、屋外リラクゼーションプール、フィットネス施設など を備える。インタビューは東京湾と都心の壮大なスカイラインを一望できる優雅な一室で行われた。
日本初のフェアモントにも息づくDNA
「フェアモントは北米発祥のホテルで、その根底に “誰もを温かく迎え入れ、自分らしく居心地良く過ごしてもらえるラグジュアリー”を提供するというアイデンティティを継承しています。一般的に、ラグジュアリーという言葉を聞くと、多くの人が美しさや壮麗さに満ちた“空間”を思い浮かべるかもしれません。私たちが意図するものは物質的なものではなく、温かく包み込むようなおもてなしのことです。なぜなら、本物のラグジュアリーというものは、緊張感やストレスを与えるものではなく、自分が自分らしくいられる環境が大切だと考えているからです」
「フェアモントが提供する“真のラグジュアリー”とは、ハードウエアではなくソフトウエアなのです。ですから、ゲストに居心地のよい体験を提供するためには、従業員自らが温かく話しやすい雰囲気を作ることがとても大切です。私は従業員を選ぶ際、これまで400人くらい直接面接しました。過去に何をやってきたのかは履歴書を見ればわかりますが、経歴やスキルだけではなく、その人の個性や仕草、会話の仕方などが見たかったからです。答えはパーフェクトでなくても構いません。どのようにコミュニケーションを図るかが大事だと考えています」
「ホテルへ足を踏み入れた際に、『ご予約はございますか?』『今日はご宿泊ですか?』などと聞かれることが多いと思いますが、私たちのホテルには予約がなくてもいらっしゃっていただきたいと思います。例えば35階の屋外テラスで眺望を撮影したいということも歓迎です。ホテルに入った瞬間は、壮大な建物の空間に緊張するかもしれません。でもそれは見た目のハードウエアです。私たちはサービスというソフトウエアで緊張からゲストを解き放ちます。従業員が接しやすい雰囲気を醸すことで、ゲストがリラックスできる空間を目指します。なぜなら、ゲストと従業員の関係性が良いと、このホテルにまた来たいと思い必ず戻ってきてくれるからです」
フェアモントゴールド階にある客室とスイートルームに宿泊したゲストが利用できる「フェアモントゴールド ラウンジ」。
フェアモントの世界観と東京の融合
「フェアモントブランドというのは、1945年にフェアモント サンフランシスコで国連憲章に50か国が署名し世界平和の礎が築かれた歴史的な場所としてその名を刻んだほか、1969年にフェアモント ザ クイーン エリザベス(カナダ・モントリオール)でビートルズのジョン・レノンとオノ・ヨーコが「ベッドイン」を行い、世界中に平和のメッセージを発信するなど、歴史的舞台となったホテルです。フェアモント東京も、“何かが起こるときにはフェアモントで起こる”という場所にしたい。記憶や思い出の1ページになるような、印象的な場所にしたいです。また、ブランドが持つ世界観をローカライズして、日本文化の要素を入れたサービスや体験も取り入れていく予定です」
「おもてなしには、“固定されたおもてなし”と“決められていないおもてなし”があると思います。30~40%は教育で養うものですが、残りの部分に個人のパーソナリティを入れることによって従業員の個性が生まれ、コミュニケーション自体がとても心地よいものになっていくのです。従業員それぞれの個性がゲストの信頼を生み、訪れる楽しみや幸福感を生みます」
「そうして人々がおのずと集い、やがて繋がることで未来を担うコミュニティを作る、“ホテルの枠を超えたホテル”というような特別な場所にしたいのです。ここ芝浦は、一方が海で一方が都心というパーフェクトなロケーション。モノレールがすぐ傍を走っており、羽田空港まで13分で行けるとてもアクセスが良い所です。フェアモントの精神を受け継ぎながら、国内外のゲートウェイとして進化し続ける芝浦で新たな物語を紡いでいきたいです」
『最高ハピネス責任者(CHO:チーフ ハピネス オフィサー)』のセリーン(SERENE)。
名門ホテルならではの魅力や楽しみ方
「実は、ケイナイン(訓練された犬) アンバサダーをホテル業界で初めて取り入れたのはフェアモントです。現在は、バンクーバーやボストン、ワシントンDCなど世界中で8つのホテルで 導入されている愛犬プログラムで、“ワン”ハーティスト(ワンちゃん従業員)による出迎えや交流を通して、ゲストに癒しと笑顔を届けています」
「フェアモント東京にはセリーン(SERENE)という名前のラブラドール レトリバーがおり、役職は『最高ハピネス責任者(CHO:チーフ ハピネス オフィサー)』です。他のフェアモントでは、従業員が連れて来たり連れ帰ったりしていますが、ここでは初めてホテルに住まうフェアモント東京ならではのスタイルでケイナインを迎え入れています。ゲストが来たときにセリーンがしっぽを振って出迎えると、すごくホッとしてみんな思わず笑顔になることでしょう。これはゲストに限ったことではなく、従業員にとってもよいことなのです。従業員がストレスを感じた時に、セリーンは人と人との仲を取り持ちとてもよい働きをするはずです。もちろん衛生面に配慮して居場所は決めています。一番大切なのは、すべての方にとって居心地がよい空間にすることです」
「また、当ホテル35階のメインロビー階は、緑と庭園が配された開放的な屋外テラスが広がり、内と外の境界を感じさせないフロアになっています。宿泊客と、ウェルネスをサポートする「フェアモント フィット」のメンバーシップが利用できる屋内インフィニティプールは、プールに入りながら東京タワーを眺めたり、屋外リラクゼーションプール サンデッキで本を読みながら 都心の喧騒を忘れたりすることができ、都会にいながらリゾートを感じていただける空間がとてもユニークです」
35階 オールデイダイニング「Kiln&Tonic」のテラス
東京タワーを目の前に臨む屋外リラクゼーションプール。奥のガラスの向こう側には屋内インフィニティプールがある。
ラグジュアリーホテルのあるべき姿
「今、ラグジュアリーホテルに求められているものは、“レスポンシブル(責任ある) ラグジュアリー”だと思います。そのひとつとしてサステナビリティの活動を行っておりますが、これは私自らが率先して行うべきことだと思っています。なぜなら、そういった活動というのはトップから下にひとりひとりきちんとメッセージを届けていく必要があるからです。そうすることで、共通の理解のもと動くことができるのです。当ホテルでは、使い捨てのプラスチックを極力なくすほか、ブッフェを行いません。新鮮なお食事を提供するということだけでなく、無駄な食材を出さないためです。例えばキッチンのゴミ箱にカメラをつけて、エグゼクティブシェフと月ごとにフードロスを確認し、廃棄量を分析して無駄な食材の廃棄がないように努めていきます」
「もうひとつは、NPOの動物愛護団体とパートナーを組んで『ワンタスティック(愛犬と滞在する宿泊プラン)』の売り上げの10%を団体に寄付し、保護された動物たちが今後良い生活ができるように活動を支援していきます」
「私は、これからの時代は“自分が何によって幸せを感じるか”がラグジュアリーの定義だと思っています。煌びやかなシャンデリアやゴージャスなアイテムといった外的なものではなく、自分の内面にある気持ちに従うことが幸せにつながると思います。今後ラグジュアリーホテルが向かっていくところは、お客様がリラックスできる場所であり、自分自身が自分らしくいられて、ゆっくり考える余裕をもてる場所だと考えています。私たちは、世界中からの旅行者、地域の皆様、そして愛犬までも温かくお迎えし、フェアモントに関わる全ての方々が、ご自身にとっての真のラグジュアリーを感じられる場を創り上げていくことを楽しみにしております」
すべてを包み込むような満面の笑みで自信たっぷりに語ったカラン シン氏。 “誰もを温かく迎え入れ、自分らしく居心地良く過ごしてもらえるラグジュアリー”を提供していくことで、人々を魅了する素晴らしいホテルになるに違いない。
フェアモント東京
東京都港区芝浦1-1-1
TEL03-4321-1111