THE MEN WHO WORE DOUBLE-BREASTED TAILORING BEST

ダブルブレステッドのベストドレッサーたち

October 2021

これから紹介する“DB”ヒーローたちが、ダブルブレステッド・スーツはあらゆる体型、サイズ、スタイルの男性に似合うことを証明する。

 

 

by CHRISTIAN BARKER

 

 

 

アン王女が父に手を差し伸べる愛情深い瞬間 (1951年)。

 

 

 

 ダブルブレステッドのスーツが似合うのは、背が高くてスリムな男性だけだという誤解がある。しかし、そんなことはない。これから紹介する写真が証明するように、どんな体型の男性でも、仕立ての良い“DB”を着れば、凛々しさが際立つのだ。

 

 史上最も偉大な“DB”着用者のひとりはもちろんフレッド・アステアだが、彼の身長は約165cmだった。現代の映画スター、トム・クルーズも同じ身長だが、よくダブルブレストを着こなしている。4×1ボタンのスタイルを好み、下側のボタンの間隔を狭くして、上側のボタンと一体となり、力強いショルダーラインを作り出している(しかし残念なことに、サルトリアに無頓着な彼は、長過ぎるトラウザーズを穿きがちだ。これは背を高く魅せるには逆効果である)。

 

 

 

 

 アメリカのスタイル界の巨人、ラルフ・ローレンはダブルブレステッドのスーツを完璧に着こなしている。多くの場合、6つボタン中1つがけ、または6つボタンの下1つがけ(一番下のボタンで留める)をチョイスし、広い肩幅と長い裾、そしていうまでもなく理想的なトラウザーズの丈で、エレガントな逆三角形のシルエットを見事に作り上げている。また、ダブル・ジャケットの内側の“ジガー”ボタンをわざと留めず、右側のラペルが外側に落ちるようにして、ジャケットの前身頃の開口部を長くし、さらに背が高い印象を与えている。

 

 フェラーリ、フィアット、アリタリア航空のトップなどを歴任した、イタリアのビジネス界の巨人、ルカ・ディ・モンテゼーモロは、若い頃はテーラードのダブルジャケットのボタンを完全に外して着ていることが多かったが、今日では6つボタンの一番下のボタンだけを留め、ジガーを外し、右側のラペルを下げて、ネクタイを無造作にはみ出させている姿がよく見られる。

 

 

 

 

 モンテゼーモロの師匠であり“レイク・オブ・リヴィエラ”と呼ばれたジャンニ・アニェッリも、ダブルを着崩す達人だった。彼にとって、ジガーボタンは、アルファロメオのフェンダーのように余計なものであり、ダブルブレステッドは常にボタンを留めておかなければならないという紳士服のルールを一切無視していた。

 

 トッズの創業者ディエゴ・デッラ・ヴァッレも同様に、フロントボタンをよく外している。ダブルスーツの前身頃の開口部には、高級ファッションブランド“フェイ”のシルクやカシミアのスカーフを巻いていることが多い。

 

 

 

 

 アニェッリの莫大な財産の一部を受け継ぎ、彼のワードローブのすべてを継承した、イタリアで最もスタイリッシュな男性のひとりであるラポ・エルカーンは、アニェッリと同じくダブルブレステッドの信奉者である。以前は祖父のように6つボタン2つがけの服を着ていたが、最近のラポは4つボタン1つがけのシャープなDBを着ることが多くなっている。

 

 ラポのテーラーであるルカ・ルビナッチは、主に6つボタン1つがけ(または2つがけでボトムを締める)という着こなしを得意としている。

 

 同じくストリートスタイルを愛するアルバザールの代表、リーノ・イェルツィは、7をあしらったネクタイを締め、6つボタン2つがけを上までしっかりと締めている。

 

 

 

 

 ダブルブレステッドのアイコンとしては、フィリップ王配、チャールズ皇太子、マイケル・オブ・ケント王子の威厳ある姿を抜きにしては語れない。スタンダードなダブルスーツを着ているイメージが一般的だが、1980年代、90年代にそれぞれが着用していた8つボタン3つがけの金ボタンのDBブレザーは、特に印象に残るものだった。これはピーコートをベースにしたジャケットで、ふたりに共通する海軍のバックグラウンドを示唆している。

 

 

 

 

 アステアやローレンのようにクラシカルに着こなしても、王族のように海軍風に着こなしても、あるいはラポ、ルカ、リーノのようにブレーキング・ルールで着こなしても、すべて様になるのがダブルブレステッドの魅力だ。唯一のルールは自分流に着こなすこと。ダブルブレステッドは、とても自由な1着なのである。