MADE BY THE HEART
「心」で作られる靴 ── サントーニ
November 2024
現代のテクノロジーと昔ながらの職人技を併せ持つと主張するブランドは多い。しかし、この難しいデュエットを巧みに奏でているファクトリーとして、イタリアのサントーニに比類するものはない。
text scott harper
イタリア靴の故郷として知られるマルケ州を空から眺めると、大小の起伏に飛んだ緑のパッチワークのように見える。しかし、田舎町コリドーニアの近くにあるサントーニの本社は、まるでシリコンバレーの巨大工場を思わせる。燦然と輝く白亜の建物なのである。しかし、そこで生み出される製品は、トランジスタやマイクロプロセッサといった冷たい機械ではなく、もっと人間的で温かいものだ。
生産されているのは高級レザーシューズである。サンフランシスコ、シドニー、シンガポール、ミラノ、パリ、ロンドン、ドバイに至るまで、最高級のブティックが軒を連ねる街にふさわしい、比類なきクオリティとセンスを誇る靴たちだ。サントーニは、イタリアの伝統的な靴作りを継承しているだけではなく、その未来をも切り拓いている。
しかし、その始まりは地味なものだった。ブランドは70年代半ばに、イタリアのアドリア海沿岸に近いマチェラータ近郊で、アンドレア・サントーニと妻ローザによって創業された。彼は革裁断職人から大手靴製造会社の生産マネージャーに転身した男だった。最初の工房は実家の隣にあるガレージだった。
それから半世紀が経ち、サントーニは大きく成長した(ブランドは2025年に創立50周年を迎える)。現在では約700人のスタッフが、毎日およそ2,000足の靴を製造している。製品のうち82%は輸出に回され、70カ国以上の国で売られている。
しかし、驚くべきは生産量そのものではない。サントーニの凄さは、何世紀にもわたって受け継がれてきた職人技を守りながら、大量生産の技術を確立したところにあるのだ。サントーニは、「大規模な職人技」という矛盾した言葉を体現している。
工場では、芸術性、集中力、技術、専門知識のすべてが高いレベルで保たれている。建物の入り口近くにはプレゼンテーションコーナーがあり、彼らの持つスキルが誇らしげに展示されている。その様子は最新トレンドを発信するギャラリーのようである。
どの一流シェフも、優れた料理は材料から始まると言うだろう。靴の場合も同じだ。サントーニが使用するのは、最高品質の牛革に加えて、希少なベビーアリゲーター、ダチョウ、イグアナなどである。すべてはサステナビリティに配慮されながら調達されている。
工場で印象的なのは縫ったり、叩いたり、穴を開けたりする騒音で満たされた中で、職人たちが一心不乱に靴を作っている姿だ。アッパーの裁断や縫製、グッドイヤーウェルティング、アウトソールの縫い付け、ヒールリフティングまで、彼らは靴作りに人生を捧げている。
一方、最近の工場の改善により、革命的な方法が導入され、精度を向上させつつ、生産のスピードアップが可能となった。
「もはやヘンリー・フォード式の伝統的な生産ラインは使っていません」
そう語るのは、アンドレアの息子であり、現・会長兼社長のジュゼッペ・サントーニ氏である。彼は7歳のときから創業間もない会社のガレージで父親の働く姿を見ており、自然と靴作りを覚えたという。
「各職人は前の作業場から受け取ったものが、すべてのチェック項目を満たしているかどうか、その都度確認します。以前はこうしたことは工程の最後に行われていました」
各工程で製品をチェックすることは、クオリティコントロールに大きな影響を与えるという。
「靴、革製品、アクセサリーなどの通常の既製服製造では、2.5%から3%の製品が品質テストで不合格になります。自動車産業では0.3%で10分の1程度です。ここサントーニでは、0.6パーセントという数字が出ています。確かに自動車産業よりも悪い数字ですが、それは私たちが機械を使って金属を加工しているのではなく、手を使って天然皮革を成形しているからです。それでもライバルメーカーと比べると、5倍以上もクオリティが高いのです」
さまざまな工程を含めると、靴1足につき約1週間もの時間が必要となる。その中には、すべての靴メーカーが行っている基本作業もあれば、ハンドソーンの縫い目や、染料を何度も塗り重ねることで得られる「アンティカトゥーラ」仕上げなど、サントーニ独自のものもある。細部にまでこだわりつつ、作業は効率的で、現場に慌ただしさはまったくない。
「傑作を作りたいなら、古の方法で取り組まなければならない。完璧を求めるなら、回り道はできない」
数年前に著者が工場を訪問した際に、創業者アンドレアが語った言葉である(彼は残念ながら2年前に亡くなった)。彼の哲学は時を超えたものである。
メイド・イン・イタリーのコンセプトは常に進化を続けている。伝統への真摯な姿勢だけでなく、このブランドは環境への配慮でも知られている。
「化学糊は一切使用せず、自然由来や水性のものだけを使っています。また、工場の電力は約70%が太陽光パネルでまかなわれています」とジュゼッペは説明する。
「私たちが調達する革は、主に食品産業の副産物であり、革をリサイクルするタンナーから仕入れています」
地下の貯水池に雨水を集め、生産に利用するという巧妙なシステムも持っている。しかし、ここでいうサステナビリティとは、環境だけに限ったことではない。サントーニの哲学によれば、技術も「持続可能」でなければならない。
2023年3月にオープンしたサントーニの「アカデミア・デッレ・エッツェレンツァ」は、ジュゼッペの言葉を借りれば、
「職人たちが自分の技術を若い才能に教え、彼らのメンターとなり、会社の価値観も伝える場所」だ。
ジュゼッペは、会社にとって一番の価値観を考えるとき、一般的な「クオリティ」という言葉だけでは十分ではないという。幼い頃から靴作りに親しみ、父の背中を見て育った彼にとって、「クオリティ」はより深く、哲学的な意味を持つ。
「クオリティとは、製品そのものだけの問題ではないのです」
そう彼は結論づける。
「サントーニを買うということは、単に高い品質の靴を手に入れることではありません。私たちが目指すべきは、さらに上です。われわれの靴をユニークで特別な存在──幸福感を得られるものにしたいのです。それは手(ハンド)で作られているばかりでなく、心(ハート)でも作られていなければなりません」