LOCK, STOCK AND 200 YEARS OF SMOKING BARRELS

ジェームス・パーディ&サンズの200年

August 2021

パーディ&サンズ社は、英国ロンドン・メイフェアの老舗ガン・メーカーであり、そのクラフトマンシップは、他に類を見ない。

来たるハンティング・シーズンを前に、THE RAKEは同社のロンドン工場の舞台裏を取材した。

 

 

 

by tom chamberlin

photography kim lang

 

ロングルームのテーブルに置かれたパーディの銃、左から順に スポーター、パーディ・トリガー・プレート、ベスト・サイド・バイ・サイド、ベスト・ダマスカス・サイド・バイ・サイド。

 

 

 

 私には不思議なほど鮮明な子供の頃の記憶がある。教会で双子の兄にちょっかいを出して牧師に怒られたことや、かくれんぼをしているときに洗濯物入れに隠れたことなどを、昨日のことのように憶えている。今でも忘れられないのは、丸一日不在だった父が、カントリーチェックのシャツにニッカボッカー、ガーターで吊り下げた大きなウールのソックスを履いて帰ってきたことだ。彼は仕留めてきた鳥を抱えて、冷蔵庫の脇に吊るし、たまに摘んでは食べていた。

 

 反対側には私たちの手の届かないキャビネットがあり、そこには父が軍隊時代に使っていた騎兵隊の剣や、パーディのショットガンが保管されていた。その時の私はまだ幼かったし、その後も特に機会がなかったので銃に親しむことはなかったが、戸棚の靴、手首のロレックス、冷蔵庫の上の父とフィリップ殿下の写真などと並んで、それは私の憧れであり、賞賛の的だった。

 

 今日の世界で私が大切にしている多くのものと同じように、父はそのプリズムを通して、それらの大切さを私に教えようとしていたのだ。

 

 THE RAKEはこれまで多くのカントリースポーツ・ブランドやガン・メーカーとともに仕事をしてきたが、私はずっと、メイフェアのマウント・ストリートにあるパーディから目をそらすことはできなかった。

 彼らのフラッグシップ・ショップは、歴史ある素晴らしい店だ。大理石の柱は第二次世界大戦でのドイツによるロンドン大空襲の被害を受けているが、その記憶を忘れないよう、あえて修復されていない。

 

 店内は、伝統的な英国のヘリテージショップの特徴である、平和と静けさ、礼儀正しいスタッフ、美しい商品が揃っている。真っ赤なカーペットに踏み入り右に曲がると、ウェアのコーナーがある。ここには、シューティング時のドレスコードや伝統をふまえてデザインされた衣服が並んでいる。中には透湿性や防水性を高めるための技術が施されているものもある。

 

 

 

 

 左に曲がると、“ザ・ロングルーム”に入る。ここでは、オーダーメイドの銃を受注しており、1814年までさかのぼる台帳から、その歴史を知ることができる。部屋の中央にある大きなテーブルは、役員会が行われる場所だが、前会長のリチャード・ボーモントが引退した際には、女王陛下をお迎えして晩餐会を開いたこともある。この部屋は、ブランドの素晴らしい歴史を示す博物館であり、多くの銃が陳列され、並外れた美と職人技が展示されている。

 

 われわれは今回、それらの銃がどのように作られているのかを知るために訪問した。

 

 パーディ社は1814年の生産開始当時に使われていた技術を今でも受け継いでいる。驚いたことに、工場自体もハマースミスにある古い屠殺場跡にあって、ロンドンに残る最後の工業工場のひとつなのだ。銃の製造には2年ほどかかることもあるが、7つの工程のうちの第1番目はザ・ロングルームで行われる。銃のモデルを選び、オーダーメイドの仕立て屋や靴屋と同様に、材料を選ぶ必要がある。好みの銃をデザインするために、木材、金属、彫金などのオプションを決め、その後、フィッティングを行う。

 

 ワンサイズで万人に合うという銃はない。うまく撃ちたいなら、サイズの合った銃を選ぶことが肝要だ。職人は、銃の中心となるバランスを見つけなければならないが、銃は完全にまっすぐではなく、場合によっては歪んでいることもある。フィッティングでは、スーツのように体格を考慮するだけでなく、目も考慮する。銃を構えたときの目の動きに合わせて曲率を決めていく。

 

 第2段階で、いよいよ製造工程に入る。材料となる木材は、24ヶ月もの時間をかけて乾燥させられ、工場に到着すると(ストックの木材は主にウォールナット)、適切なサイズにカットされる。そして2階の製造ラインから職人が降りてきて、それぞれの持ち場に運ばれる。

 

 鉄を加工して銃身や動作部分(アクション)が作られる。長くてしっかりとしたスチールチューブは、機械で穴を開けられ、ベンチワーカーに移される。ベンチワーカーは、銃身を必要な幅にヤスリで削ったり、サンドペーパーをかけたりして、チューブ全体がまっすぐであることを確認する。

 

 

 

 

 第3段階は、スチールブロックからアクションを作るという、より高度な技術を要する工程だ。機械加工室は、かつて訪れたことのある自動車工場を彷彿とさせた。圧力、水、そして電線を使って鉄を切断する巨大な装置が並んでいる。時計愛好家であれば誰もが知っているムーブメントのメカニズムを、拡大して作るのだ。ハイテク装置を使って、アクションの各部分のサイズをほんのわずかな単位で調整する。その装置は、ベントレーのクルー工場で使われていたものと同じだった。

 

 機械加工から2階に上がると、一転して古式ゆかしい方法で、第4段階である銃床の製作が行われている。何十年もの経験を積んだ男たちが、万力やノミを持ち、作業用の部品を受け取り組み立てている。ここで思い出して欲しいのは、銃は一丁一丁がオーダーメイドであるため、出来合いの銃身のセットをアクションに取り付けることはできないということだ。目に見えない部分も含めて、その人だけの銃になっているのだ。

 

 

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 そこでは最新のテクノロジーも使われている。3Dプリンターで作ったプラスチック部品のモデルを使って、すべての動作にエラーが起きないかを確認しているのだ。

 

 すべてが正しいことを確認するために250年前から行われている方法が、“スモーク・ブラック”と呼ばれるものだ。まず金属の下にパラフィンランプを灯し、金属をススで覆う。そして部品を接続した後、ススがどこで取れたかを確認する。均一であれば、すべてのススが銃身を囲むように均等に取れ、部分的であれば、その部分に重量がかかっているので、すべてが均一になるまでヤスリで削る必要があるということだ。ウォールナットは、十分に乾燥された後、シェーピングして形を整え、ニスを塗る前に、グリップのためのギザギザ加工を施す。

 

 

 

 

 木材の準備をしている間に、金属部分にはエングレービング(彫金)が施される(第5段階)。この銃が完成するまでとても時間がかかり、ウエイティング・リストが伝説的に長くなっている理由のひとつは、リクエストに応えられるだけの十分な技量を持つエングレーバーが、数えるほどしかいないからだ。

 

 しかし、家族や(そしてもっと大切な)愛犬、あるいはこれから狙おうとしている獲物など、アクションに好きなものを入れることができるのは、オーダーメイド銃製作の大きな魅力のひとつだ。

 

 

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 第6段階では、熟練した職人技の魔法が、私たちを感動させてくれる。金属部品と木工部品がナノメートル単位で接合されるのだ。この段階で、銃のテストも行われる。パーディ社が所有するロイヤル・バークシャー・シューティング・スクールに持ち込まれ、250発の弾丸が発射される。

 

 問題がなければ、工場に戻ってニス塗りと仕上げが行われる。最初に塗るオイルは“レッド・オイル”と呼ばれるもので、亜麻仁油とアルカンナが使われ、これがウォールナット特有の模様をもたらす。このオイルを塗ると、木目がはっきりと見えるようになるのだ。

 

 

 

 

 続いて、パーディが独自に開発したオイルを使って最終仕上げを行う。このボトルは燭台のような形をしており、亜麻仁油、蜜蝋、その他いくつかの秘密の材料が使われている。「これはパーディのコカコーラ・レシピのようなものだよ」と、あるフィニッシャーが語った。これは、木に栄養を与えるように調合されている。合成油が表面に付着しているのに対し、この成分は木に吸収され、その強度を保ち、補修にも役立つ。

 

 オイルが乾いたら、銃を磨いてきれいにし、工場の試射室で50発、さらに射撃場で200発を撃ってテストする。クオリティ・コントロールで、古参のスタッフがバランスや部品をチェックした後、第7段階に移る。ここでは、顧客が最終的なフィッティングとテスト射撃を行い、投資の成果を楽しむことになる。

 

 今回、工場を徹底的に見て回ったことで、「古い技術には理由がある」ということを痛感した。手工芸品がいまだに人気があるのは、クラシック音楽のように、現代の技術をもってしてもそれに取って代わるものがないからだ。クラフツマンたち、そしてクラフツウーマンたち(作業場には多くの女性もいた)は、何世紀にもわたって受け継がれてきた技術を継承しており、射撃の世界で、最高の評価を得ている。

 

 パーディは百発百中を保証するものではないが、少なくとも使うたびに、素晴らしい芸術性を堪能できる。もしかしたら、あなたは知らず知らずのうちに、自分の子供たちのために、思い出を作っているかもしれない。私から言わせれば、それは牧師に怒鳴られるよりはずっといいものだろう。