KARL-FRIEDRICH SCHEUFELE, CHOPARD Co-President —Interview—

【インタビュー】ショパールが描く“日本美”

January 2026

2025年10月に発表されたショパールの新作のテーマは、日本。カール‐フリードリッヒ・ショイフレ共同社長の積年の想いが、さまざまなメティエダールで腕時計に投影された。

 

 

text norio takagi

photography natsuko okada

 

 

Karl-Friedrich Scheufele/カール-フリードリッヒ・ショイフレ
ショパール共同社長。1958年、ドイツ生まれ。15歳でスイスに移住し、HECローザンヌ校に入学。卒業後、ショイフレ家が率いるショパールの経営に参画。ワインとヴィンテージカー、ヴィンテージウォッチを愛する趣味人であり、現代に続く「ミッレ ミリア コレクション」(1988年)や、マニュファクチュール設立および自社製ムーブメント「L.U.C」の開発(ともに1996年)を主導した。

 

 

 

 スイスの時計関係者には、日本好きが多い。ショパールのカール-フリードリッヒ・ショイフレ共同社長も、そのひとりだ。彼は40年以上にわたって定期的に訪日し、日本との深い絆を育んできた。

 

「幾度となく日本を訪れてきましたが、滞在日数は非常に限られていました。それが2019年に長期滞在が叶い、京都を旅することができたのです。その旅で、特に印象に残ったのが天龍寺でした。建物も庭も目を見張るほどに美しく、柱の金具なども実に手が込んでいて、あちらこちらを大量の写真に収めてきました。それ以来、日本の伝統的な文化遺産を時計で表現したいと想い続けてきたのです」

 

 その想いが今年、ついに実現した。10月に来日した際、ショイフレ氏が携えてきたのは、7つの限定モデル。各ダイヤルには、さまざまな工芸技術で日本の伝統美が表現されている。本ページの3モデルは、“Inspirations from Japan – Artistic Crafts in Time”と名づけられた、今回の限定コレクションの一部である。

 

 その中のひとつ「L.U.C XP 漆 浮世絵」のダイヤルを手がけたのは、2009年からパートナーシップを築いてきた山田平安堂の漆職人、小泉三教氏。モチーフとしたのは、葛飾北斎の冨嶽三十六景 「東海道江尻田子の浦略図」である。

 

「数ある北斎の富士山画の中から、この1枚を私自身が選びました。そしてダイヤルに合わせて丸くトリミングしたのも、私です。針が重なっても富士山の美しさが損なわれない、一番いいバランスを慎重に決めました。それを基に小泉氏は、いくつものサンプルを製作してくれたのですが、どれも素晴らしい出来栄えでした。その中で完璧だと私が感じたひとつを選び、同じものを作っていただいたのです。これは日本とスイスの技術が融合した、本当に特別な1本となりました」

 

 

 


L.U.C XP 漆 浮世絵
浜辺の塩田で働く小さな人々の姿も漆で再現。世界限定8本。自動巻き、18KエシカルYGケース、40mm。¥5,940,000 Chopard

 

 

 

 メゾンが誇る、ハイエンドな自社製ムーブメントCal.L.U.C 96.41-Lを搭載。マイクロローター式の自動巻きであり、3.3mm厚という極薄設計のため、それを収めるケース厚も8.28mmと薄くなり、エレガントな印象を高める。これと同じムーブメントとケースサイズの「L.U.C XP 日本刀」のダイヤルは、鋼を繰り返し折り曲げ鍛造する日本刀と同じ技法で、ダマスカス鋼の名で知られる木目調の模様をつくり出した。

 

「このダイヤルは、何十年も日本で刀鍛冶技術を修行した職人がいるヌーシャテルのコルセル鍛冶工房で作られています。シンプルですが模様には個体差があるため、限定数25本の各モデルは、どれもユニークピースといえます。見る角度や光の具合によって模様の浮かび上がり方が変わる様子が、私は好きです」

 

 


L.U.C XP 日本刀
木目模様が美しい。 世界限定25本。自動巻き、18KエシカルWGケース、40mm。¥5,280,000。

 

 

 

 これら2作とは異なり、「L.U.C クアトロ スピリット“瞑想する達磨”」のダイヤルは、メゾンが持つメティエダール(芸術的手仕事)の賜物である。製作者は、フルリエにあるショパール マニュファクチュールで働くエナメル職人クリストフ氏。彼は、ショイフレ氏が自身で撮影した日本の写真や、伝統的な文化遺産の資料本の中から、図案を複数セレクトした。そしてさらにショイフレ氏 が、その中から3つを厳選。ゆえに「L.U.C クアトロ スピリット」の限定モデルには、写真の「瞑想する達磨」に加え、毛筆による輪「円相」と破れ軍扇の「サムライラスト スタンド」の計3モデルがラインナップされる。

 

「これらは、日本のグラフィックをテーマにしています。中でも“瞑想する達磨”と“円相”は一筆描きされ、抽象的かつミニマルです。普段エナメル職人は、筆を細かく動かしながら細密画を描き出しているため、一気に一筆書きするのは初めての経験。にもかかわらず、非常に満足がいく出来栄えに仕上げてくれました」

 

 これらのモチーフにはそれぞれ、「瞑想する達磨」は“七転び八起き”の不屈の精神、「円相」は瞑想とマインドフルネス、「サムライ ラスト スタンド」の破れ軍扇は傷ついても突き進む武士道の精神と扇が破れても要が無事ならば決してバラバラにならない絆、という意味を持つ。

 

「当初はグラフィックの面白さに惹かれましたが、それぞれが生まれた背景や意味を知ると、もっと好きになりました」

 

 


L.U.C クアトロ スピリット “瞑想する達磨”
4つの香箱により約196時間(8日間)のロングパワーリザーブを実現。世界限定8本。手巻き、18KエシカルWGケース、40mm。¥9,350,000。  Chopard

 

 

 

 3作のベースとなったのは、2021年にショパール マニュファクチュール設立25周年を記念して生まれた、メゾン初のジャンピングアワー搭載モデル「L.U.C クアトロ スピリット 25」である。

 

「針が分針しかないジャンピングアワーは、ダイヤルのスペースが有効に使えるため、こうした抽象的なグラフィックには最適だと考え、採用しました」

 

 ダイヤルは、針付けのための隙間が厳格に定められ、厚さが規制される。しかし分針しかなければ、厚さの制限は緩くなる。ゆえに3作に用いたグラン・フー・エナメルの技法が取り入れやすいというのも、ジャンピングアワーが選ばれた理由のひとつである。

 

 実際に「瞑想する達磨」を見てみると、モチーフのラインはたっぷりの厚みを持たせて施されており、入念に研磨したブラックエナメルの背景にくっきりと浮き立っている。「L.U.C クアトロ スピリット 25」は、これら以前に登場した限定モデルのダイヤルでも、グラン・フー・エナメルやストロー(麦わら)マルケトリといったメティエダールが駆使されてきたモデルだ。

 

「機構的にも、われわれのジャンピングアワーが真の瞬転式であることに誇りを持っています。アワー表示のウインドウを6時位置としたのは、数字が切り替わる瞬間を分針で隠さないためです」

 

 ほか“Inspirations from Japan – Artistic Crafts in Time”には、彫金で夜 桜を表 現したレディスモデル「L.U.C XP サクラ バイ ナイト」と、同じく彫金で甲冑を表したミニッツリピーター「L.U.C フル ストライク スピリット オブ ザ・ウォリアー」が用意された。しかも全モデルが、日本だけでなく世界展開されるのだ。

 

「日本が大好きな人は、世界中にいますからね。今回の7モデルには、大変満足しています。しかし魅力的な日本のモチーフは数限りなくあるので、第2弾、第3弾を提供していきたいと考えています」

 

 

『THE RAKE 日本版』Issue67より抜粋