FERRARI 296GTS

クルマを「着る」感覚とは?:フェラーリ 296GTS

February 2023

最新のフェラーリ・ハイブリッドモデル、2022年4月に発表されたばかりの「296GTS」を、モータージャーナリスト、小川フミオがリポートする。ドライバーの思いどおりに走れる性能、クルマを「着る」感覚とは?

 

 

text fumio ogawa

 

 

 

FERRARI 296GTS

するどいイメージのフロントに対して、ゆたかにふくらんだリアフェンダーの形状は「フェラーリ250LM」(1963年)からインスピレーションを受けたといわれている。全長×全幅×全高:4,565×1,958×1,191mm/ホイールベース:2,600mm/エンジン:2,992cc V型6気筒ターボ+電気モーター(プラグインハイブリッド)/後輪駆動/最高出力:610kW@8,000rpm/最大トルク:740N・m@6,250rpm/変速機:8段F1DCT(ツインクラッチ)/最高速度:330kp/h/加速性能:0-100km/h 2.9秒、0-200km/h 7.6秒/フィオラノラップタイム:1’21″80

 

 

 

 クルマには乗る、というけれど、スポーツカーだと、着る、といったりする。ドライバーの思い通りに走れる性能を、そう表現するのだ。

 

 代表格はフェラーリだ。その評価はおそらく、1949年に第一号車が送り出されていらい、不変だろう。

 

 最新のフェラーリ・スポーツモデルは、2022年4月に発表されたばかりの「フェラーリ 296GTS」。車名にスパイダーを表す「S」が入っているように、オープンエアモータリングを楽しむために作られたモデルだ。

 

 フェラーリは伝統的に、まずクーペ、つぎにルーフが開けられるスパイダーを手がけてきた。北米と英国という大きな市場で、オープンモデルが高く評価されるからだ。それだけに、今回の296GTSはデザインにも気合いが入っている。

 

 なにより開閉式トップの設計だ。後方のエンジンルームと、乗員が乗るキャビンのあいだの狭いスペースにトップが収まる設計に成功している。走行中でも時速45キロまでであれば、車内のスイッチで14秒でルーフがするするっと格納できる。

 

 もうひとつ、ルーフへのこだわりは、あえて複雑な設計になるのを承知で、ハードトップを採用していること。

 

 イタリア・トスカーナ地方でこのクルマに乗ったとき、ちょうどフェラーリのデザイナーにも会えた。そこで、ファブリックの幌のほうが簡単だったろうに、と私がコメントすると、そのひとは「トップをあげたときにクーペと同じような美しいシルエットにしたかったのです」と応えてくれた。

 

 

乗員背後のトノー(ふくらみ)の間に「エアロブリッジ」なる横方向のパネルが渡されクーペ的な雰囲気を強調。

 

 

 

 新開発の2.9リッターV型6気筒ターボエンジン。外部充電式のプラグインハイブリッドのためモーターがそなわる。

 

 メリットは、いろいろある。ひとつは燃費。25キロまでなら電気モーターのみで走れる。もうひとつは、加速時にモーターが動いてトルクを上乗せして、強烈な加速感を味わわせてくれることだ。

 

 私が走ったコースは、振り出しがフォルテ・デイ・マルミ。ミケランジェロがダビデ像に使ったという大理石の産地で知られる地中海に面したリゾートだ。そこから、アペニン山脈を越えて、マラネロという土地にあるフェラーリ本社までの200キロ強のコースである。途中のフータ峠が、スポーツカーにぴったりの楽しい道だった。

 

 296GTSは、私のからだと一体になったように走った。冒頭で触れた“着る”感覚なのだ。ステアリングホイールに手を添えているだけで、ドライブしている私が視線を送った方向にさっとクルマが向きを変える。

 

 

室内は同じ色と素材がダッシュボードからドア内張りにつながっているイメージで、囲まれ感が安心感につながる。

 

 

 

 296GTSには最新の電子制御技術も投入されて、サーキットをふくめてあらゆる速度域での操縦性を高めている。なかには、タイヤが路面をつかまえるグリップ性能を最大限発揮するための制御もあり、結果、どんな場面でもスムーズに走れる。

 

 演出面でも凝っていて、「サウンドチューブ」を搭載。官能的なエンジン音をミックスして聴かせてくれる。前後長が長めのウインドシールドのため、風の巻き込みが少ないので、乗員は太陽の暖かさだけを味わっていられる。それとサウンドチューブからの“音楽”。気持ちを浮き立たせてくれる。

 

 インテリアは手触りのよいレザーで覆われている。シートは薄く見えるがからだをしっかりと支えてくれるし、200キロ程度なら疲れしらず。よくできているのだ。

 

 GTSのオープンキャビンは、なので、スポーツカー好きには最適の場所だ。このクルマを“着て”いられる幸運なひとが、本当にうらやましいと思う。

 

 

ハードトップは走行中も収納可能。

 

120度のバンク角をもつ2.9リッターV6ユニットは、快音を響かせ、エンジニアから「ピッコロV12」と呼ばれているそう。

 

 

THE RAKE JAPAN Edition issue49