Federico Pastorelli Interview
フェデリコ・パストレッリ氏インタビュー

フェラーリ・ジャパン社長
SF90スパイダーを語る

Thursday, April 15th, 2021

 

 

 

 “顧客が欲しがるよりも、1台だけ少なく作れ”

 

 これは、フェラーリ創業者、故エンツォ・フェラーリが遺した言葉だ。レース以外は眼中になかったとされる彼だが、実はビジネスもなかなか達者だったらしい。

 

 フェラーリはこれを社訓とし、大量生産に走らず、少量かつプレミアムなクルマを作り続けている。マーケットは常に飢餓状態で、どのモデルにも長いウエイティング・リストがつけられている。

 

 

 

 

 今回、日本上陸を果たしたSF90スパイダーも、そんな一台になることは確実だ。フェラーリのラインナップ中、最高峰に位置づけられるハイブリッド・スーパーカーである。エンジンとモーターを合わせた最高出力は1,000psにも達し、0-100km/h加速は2.5秒、最高速度340km/hという恐るべき性能を誇る。フェラリスティの間では、当分奪い合いが続くだろう。

 

 先日、限られたメディア、ジャーナリストを集めてお披露目が行われた。そのプレゼンテーションを担当した、フェラーリ・ジャパン社長、フェデリコ・パストレッリ氏に、インタビューする機会を得た。

 

 

 

 

「最近のフェラーリは、さまざまな顧客を満足させようとしています。例えばローマは、速くかつエレガントに走りたいという人のクルマです。そして今回発表したSF90スパイダーは、“何か最高峰のもの”を求めている人たちへ向けた製品なのです。われわれのレンジのなかでは、一番上にポジショニングされます。イノベーション、テクノロジーにおいて、過去のすべてのモデルを超えています。歴代のリミテッド・モデルは、GTO、F40、F50、エンツォ、ラ・フェラーリと続きましたが、SF90スパイダーの性能は、それらを遥かに凌駕しているのです」

 

 そう興奮気味に話し始めたパストレッリ氏は、特にデザイン面に注目してほしいと強調する。

 

「エンジニア部門とデザイン部門が完璧に連携して作られたクルマです。素晴らしい性能と汎用性を両立させています。たっぷりのエモーションとともに・・。例えばリトラクタブル式のトップルーフは45km/hの速度が出ていても開け閉めが可能です。格納するのが難しいハードトップであるにも関わらず、開けた状態でも美しいエンジンを外から鑑賞することができます」

 

 

 

 

 何と言っても話題なのは、このクルマがハイブリッドであることだ。ただし、フェラーリ製のハイブリッドは、他社とはひと味もふた味も違う。あくまでもパフォーマンスを追求しているのだ。

 

「新世代の内燃エンジンは780psを発生します。電気モーターはフロントふたつ、リアひとつ、計3つで220psをマークします。合わせて1,000psもの最高出力を誇ります。しかしこのクルマの魅力はパワーだけではありません。新しい機能を導入し、コントロール性も高めています。フロントに左右ふたつのモーターを持っているため、フロントホイールを独立して動かすことができるのです。これによって、自己のドライビングの限界を超え、新たな次元の走りを感じることができるのです」

 

 

 

 

 インテリアも未来を先取りするものだという。

 

「最近のフェラーリは“視線は路上に、手はステアリング・ホイールに”というモットーを掲げています。80%以上の機能をステアリング上でコントロールできるのです。マネッティーノ(ドライブモード・セレクター)には、新たに“eマネッティーノ”が追加されました。これはハイブリッドにおけるモードセレクターです。“eドライブ”に入れると電気だけで走ることができます。朝早く出かけるときに、フェラーリの素晴らしいエンジンサウンドで、ご近所を目覚めさせたくないという方におすすめです(笑)。他には、燃費と走行を両立した“ハイブリッド”や、スポーティな走りを楽しめる“パフォーマンス”など。そして“クオリファイ”に入れれば、性能の限界を試すことが出来ます」

 

 聞けば聞くほど、SF90スパイダーは、超弩級の存在であることがわかってくる。それにしても、フェラーリがハイブリッド・カーをリリースするとは驚きだ。いずれはすべてのクルマが電気自動車になってしまうのだろうか?

 

「その点については・・正直、将来的なことはわかりません。しかしひとつだけ言えることは、フェラーリは内燃エンジンであれ、エレクトリック・モーターであれ、常にベストなパフォーマンスを追求していくということです。それがフェラーリのDNAなのです」

 

 

 

 

 パストレッリ氏が訪日し、フェラーリ・ジャパンの社長に就いたのは昨年1月。まさにコロナ禍直前で、マーケットは、さぞや大変なことになったと思いきや・・

 

「日本マーケットについては、とてもポジティブな印象を持っています。日本はフェラーリにとって、相変わらずトップ市場のひとつです。コロナ禍という厳しい時期にもかかわらず、2020年度の売り上げは前年を超え、歴代首位となりました。日本のマーケットには、強いポテンシャルを感じています。また、日本のディーラーには、プロフェッショナルな人たちがたくさんいます。そのことにも感銘を受けました」

 

 フェラーリの話をすると止まらなくなるというパストレッリ氏は、根っからのフェラリストだ。同社でのキャリアは17年にも及ぶという。

 

「私はイタリア、ボローニャの生まれです。フェラーリの故郷マラネッロにも近いところです。イタリアのヤング・ボーイにとって、フェラーリはまさに夢と憧れの対象です。だからフェラーリに入社出来たときは、とても嬉しかったのを覚えています。“カリフォルニア”のプロジェクトに関わった後、パーソナライゼーションの部門を経て、フランスや南欧の担当を歴任しました。いろいろなところへ行き、素晴らしい経験をしました。私はラッキーでした。フェラーリがイタリア的か、ですって? それはもちろんです。ビューティフル、エレガント、スタイリッシュ、クリエイティブ・・イタリアについて、もしそんなイメージをお持ちでいてくれるなら、それらすべてを体現しているのがフェラーリです」

 

 なるほどパストレッリさんも、イタリア人らしくファッショナブルですね。そしてフェラーリも、とてもファッショナブルな存在なのですね? と返すと、しばし沈考した後に・・

 

「フェラーリは間違いなくラグジュアリーで、スタイルを持った存在ですが、ファッショナブルとは少し違うかもしれません。これは私の定義なのですが、ファッションは1年かそこらで終わってしまうのに対し、スタイルはずっと続くものです。例えばクラシック・フェラーリは、時を経るごとにチャーミングで、タイムレスなものになっていきます。フェラーリは永遠に残る現代のクラシックで、それはアートピースのようなものなのです」

 

 

フェラーリ カリフォルニア。フェラーリ初のクーペ・カブリオレの2+2モデルとして、2008年 に発表され、2009年から発売された。

 

 

 では、パストレッリ氏が一番好きなクラシック・フェラーリは? と尋ねると、

 

「それはやはり“フェラーリ カリフォルニア”です。開発プロジェクトに関わりましたし、私にとってはやはりスペシャルなフィーリングがあります。モデル自体も、実に美しいと思います」

 

 

 

元フィアット会長にして、イタリア最高のファッショニスタ、ジャンニ・アニエッリ。THE RAKE誌名の由来でもある。

 

 

 さて実は、THE RAKEは、フェラーリとは縁が深い媒体だ。そもそもザ・レイクという名は、元フィアット会長、ジャンニ・アニエッリのニックネームなのだ。卓越した事業家でありつつ、頭抜けた遊び人でもあったアニエッリは、“ザ・レイク・オブ・リヴィエラ(リヴィエラの放蕩者)”と呼ばれていた。

 

 彼がエンツォ・フェラーリと話し合い、フェラーリをフィアット傘下におさめたエピソードは、あまりにも有名である。そのあたりは、映画『フォードvsフェラーリ』(2019年)でも描かれている。

 

「ジャンニ・アニエッリは、フェラーリやフィアットのみならず、イタリアという国そのものを代表する人物です。イニシアティブとアイデアに富み、スタイリッシュで、何よりもチャーミングでした。翻ってエンツォ・フェラーリは、文字通り“レジェンド”です。クリエイティブで、フェラーリという独特のブランドを確立させました。プレゼンテーションのなかで(前掲の)“顧客が欲しがるよりも、1台だけ少なく作れ”というエンツォの言葉を引用しましたが、そのポリシーによって、フェラーリは単なる製品を超え、“今すぐ欲しいけど、まぁ待とう。その間に、夢を語ろう”というブランドになりました。お客様は、フェラーリの納車を、楽しみに待っていてくれるのです」

 

 

 

スクーデリア・フェラーリをF1の勝利に導き、フィアット会長を務めたルカ・ディ・モンテゼーモロ氏。

 

 

 ついでに、かのルカ・ディ・モンテゼーモロについても聞いてみた。フェラーリの元社長〜フィアット元会長で、1990〜2000年代のフェラーリを牽引した人物だ。現代有数のファッショニスタとしても知られ、かつてTHE RAKEの表紙を飾ったこともある。

 

「私は、アニエッリもエンツォも、一緒に働いたことはありませんが、モンテゼーモロについては、実際に会ったことがあります。彼は25年ものあいだ、フェラーリを率いてきました。非常にポジティブな考え方をする人であり、技術的な面にも強かった。現在のフェラーリの中には、彼が築き上げた企業文化が色濃く残っています」

 

 最後に、THE RAKE読者へのメッセージをお願いすると・・

 

「フェラーリは世界的なブランドになりましたが、まだまだ誤解されている部分も多いと思います。例えば、フェラーリは危ないとか、運転するのが難しいとか、怖いなどのイメージです。所詮はスポーツカーでしょ、と思っておられる方もいるでしょう。しかし現代のフェラーリは、あらゆる方々にフィットする、広範なレンジを持っています。運転も決して難しくありません。簡単にフェラーリならではの、エモーショナルなひとときを楽しんで頂けます。一人でも多くの方に、“フェラーリ・ファミリー”に参加して頂きたい。ぜひテスト・ドライブにお越し下さい!」

 

 パストレッリ氏は、そう締めくくってくれた。

 

 

 

 

 今回発表されたSF90スパイダーは、フェラーリの持つ最も“エッジィ”な部分を体現したクルマだが、ローマやポルトフィーノは、万人向けのフェラーリである。

 

 かつてはフェラーリというクルマは、お金がいくらあっても買えなかった。事実、女流作家のフランソワーズ・サガンは、フェラーリを欲したが、エンツォは彼女の華奢な腕を見て、「君にはフェラーリはコントロールできない」と言い放ち、決して売ろうとはしなかったという。そういう時代もあったのだ。

 

 誰でも気軽に、フェラーリを楽しめるときが来たのは、僥倖以外の何物でもないだろう。