FERRARI 296 GTB
ハイブリッドの跳馬は
ゲームチェンジャー
June 2022
フェラーリの次世代主力モデル、296GTBの国際試乗会が開かれた。
プラグインハイブリッドとなった新型ミドシップスーパーカーを、高性能モデル専門の自動車ライター、西川 淳がスペインで試す。
text jun nishikawa
Ferrari 296 GTB (フェラーリ 296GTB)
スタイリングからボディ骨格、シャシー、パワートレーン、電子制御系までほとんどすべてを新設計、新開発とした296GTB。ホイールベースも短くなって運動性能も一段と向上した。エンジン 2,992cc 120°V6ツインターボ+電気モーター 最高出力(システム総合): 830ps / 8,000rpm 最大トルク: 740Nm / 6,250rpm 全長×全幅×全高:4,565×1,958×1,187mm 車両重量(乾燥):1,470kg
フェラーリの市販ハイブリッド車としては3番目のモデルとなる296GTB。伝統に則って車名の意味するところを読み解けば、2.9リットルのエンジンを積んだ6気筒のGTクーペ、である。
フェラーリなのに6気筒だって?そう思われた方はクルマ好きに違いない。V8とV12以外のエンジンを積んだマラネッロ製ロードカーは1960年代にV6をミドに積んだディーノ以来、絶えてなかったからだ。しかもディーノに跳ね馬エンブレムは付いていなかった。
とはいえ296GTBは単なるV6ミドシップカーではない。マイナス2気筒となった代わりに電気モーターと大容量バッテリーを組み合わせ、外部からの充電も可能なプラグインハイブリッド車としたことで、従来のV8ツインターボモデルを上回るパフォーマンスを発揮することに成功した。つまり、フェラーリとしては「2気筒をケチって安いモデルをつくるつもりなどさらさらなかった」というわけだ(ディーノは廉価版だった。かなり高価になったが)。
そのことを確かめるべく、スペインはセビーリャで実施された国際試乗会に参加した。フェラーリがイタリア国外でデビュー戦を開催することはこれが初めて。それだけ気合いが入っている。
果たして296GTBの完成度の高さはすこぶるつきだった。走り出してものの数十分で人馬一体感を味わえるといっても決して大げさではない。バッテリーによる重量増の影響を微塵も感じさせることがなく、何より新開発のV6エンジンの音とフィールは正直に言って以前のV8を上回って官能的だった。
サーキットでも存分に楽しめた。モーターとエンジンの協調制御が素晴らしい。そのうえ、シャシーコントロールも従来世代の性能を大幅に上回っており、システム出力800馬力超えのリア駆動マシンをほとんど思うままに操れる。レーサー級の腕前などもはや必要ないのだ。
インテリアのデザインや操作系はSF90シリーズのイメージと重なる。デジタルコクピットが採用され、走行モード選択もパワートレーンとシャシーを分けて設定可能。パワートレーンはEV、HV、エンジンのみ、そして830psを発揮する最強モードを選ぶことができる。
一般道では至ってリーズナブルな乗り心地で、現状のラインナップ中、最も洗練されているかもしれない。知らない峠道でも水を得た魚のように駆けていける。安心感も半端ない。
そして、この跳ね馬ならフル充電で最大25kmをEVとして使うことができる。スーパーカーの出番は週末の早朝と相場が決まっているが、無音で出発できるからご近所に迷惑をかけない。早朝の街中を無音で走り抜ける跳ね馬。とても新しいし、愉快だ。帰宅が遅くなっても家人に嫌な顔をされなくて済む(バッテリー残量にはご注意を)。
排気ガス問題もさることながら、今、高性能車にとって喫緊の課題は“騒音対策”。今後はスーパーカーといえども静かに走ることが求められる。296GTBはそんな時代に先駆けて走りだした次世代スーパーカー、つまりはゲームチェンジャーでもあった。
シンプルな造形に最新の空力デザインを注入したエクステリア。