Audi TT RS Coupé

「アウディ=デザインのいいクルマ」
その評価を確立した唯一無二の存在

September 2022

text KENTARO MATSUO

 

 

 

 

 1998年にデビューした初代アウディTTは、エポックメイキングなクルマであった。円を基調とした、まるでコンパスを使って描かれたようなエクステリアが斬新だった。その造形はバウハウス的ともいわれ、「アウディ=デザインのいいクルマ」という評価を確立した一台だったと記憶している。

 

 それから20年以上の間にわたって、TTはアウディのデザイン面におけるフラッグシップであり続けた。3代目となる現行モデルでも、初代からのパッケージ=小さなボディ、クワトロ(四輪駆動)システム、2+2の組み合わせは引き継がれており、スポーツカーの世界において、独自のポジションを占めている。

 

 今回はそんなTTの最強モデルであるTT RSクーペに試乗する機会を得た。

 

 

 

 

 エクステリアは、タイヤハウスなどに初代のエッセンスを残しつつ、直線やヘクサゴン(六角形)のモチーフを取り入れ、より現代的な意匠となっている。全長4,200mm、全幅1,830mmと現代のスポーツカーとしては小さめのサイズながら、その存在感はなかなかのものだ。

 

 目を引かれるのは、アウディのシンボルである六角形のシングルフレームグリル、RSならではの巨大なフロント・エアインテーク、20インチホイール(オプション・標準は19インチ)、そしてリヤウィングである。ウィングレット付きのリヤウイングは全体が弓形に反っており、丸みを帯びたテールとマッチしている。

 

 ボディカラーの「キャラミグリーン」はRS専用色であり、とにかくよく目立つ。他にもイエロー、レッド、ブルーなどヴィヴィッドなカラーが数多く用意されているので、「スポーツカーは華やかでなくては」と思われている方にはうってつけだ。

 

 

 

 

 転じてインテリアは、シンプルでマスキュリンなもの。ブラックカラーのレザー、アルカンターラを基調とし、センターコンソールやドアトリムにカーボンがあしらわれている。シートには六角形のステッチが入っている。コクピットはタイトで、ダッシュボードはドライバーを囲むようにシフトしている。

 

 すぐに気がつくのは、センターディスプレイがないこと。代わりにエアコンの吹出口が3つ並んでいる。このクルマのディスプレイはメーターパネルの中に収められており、見ることができるのはドライバーのみとなっている。ステアリングにはナビやオーディオ、電話などをコントロールできるスイッチが実に使いやすくまとめられているから、パッセンジャーに頼らなくてもすべての操作が可能だ。

 

 このコクピットはまさに「男の仕事場」といった風である。

 

 

 

 

 同じくステアリングに取り付けられた赤いスタートスイッチを押すと、(ちょっと驚くほどの)爆音とともにエンジンが目覚める。搭載されているのは5気筒2.5Lターボで、最高出力400psを叩き出す。とにかくめちゃくちゃに速い。0-100km加速は3.7秒で、これはスーパーカー級の数字だ。

 

 ステアリングには「ドライブセレクト」のスイッチもついていて、コンフォート、オート、ダイナミック、そしてインディヴィジュアル(個別設定)と4つのドライビング・モードを選ぶことができる。ダイナミックを選ぶと、エンジンは高回転をキープし、サスは締め上がり、エンジン音はますます勇ましくなる。ツインクラッチが採用されており、シフトダウンする際は「ブオン」といったブリッピング音を奏でる。

 

 クワトロシステムのよさは、別にサーキットなどを走らなくても体感できる。例えばカーブでセンターラインから5cm内側を狙って走ると、その通りのラインを正確にトレースできるのだ。TT RSに乗ると、なんだか運転がうまくなったような気がする。

 

 このクルマはドライバーをその気にさせる演出に満ち満ちているのだ。

 

 

 

 

 スパルタンなイメージのTT RSだが、デイリーカーとして使うことも十分可能だ。モードをコンフォートにすれば乗り心地はいいし、小さいながらもリヤシートを備えているので、バッグの置き場所や子供の居場所に困ることもない。リヤハッチバックを開けると、大きめのラゲッジスペースがあり、リヤシートを倒せば複数のゴルフバッグなども楽々載せることができるだろう。

 

 コンパクトなサイズ、強力なエンジン、クワトロシステム、2+2の居住性とユニークな個性を持つTT RSには、ライバルらしきクルマが見当たらない(強いていえば、ポルシェ911カレラ4だが、あちらは一回り大きく、価格も500万円以上高い)

 

 しかしながら、この唯一無二の存在が、もうすぐ手に入らなくなるかもしれないという。アウディは早急な電動化を進めており、もし仮にTTの後継モデルが出るとしても、100%エンジン車ということはなさそうだ。

 

 アウディの記念碑的な一台を手に入れるなら、いまがラストチャンスなのである。