CHERISHED ITEMS PASSED DOWN FROM FATHER TO SON
父から子へ受け継がれた大切なもの
June 2021
父の日に際して、THE RAKEの友人たちが、父親から受け継いだ思い出の品々を紹介してくれた。
by freddie anderson
ルイジ・コルドネJr.とその父親。
ルカ・ルビナッチ
「20代前半の頃、私は父が身につけている時計について質問するようになりました。ヴィンテージ時計をこよなく愛していた父は、ある日、私をニューヨークのサザビーズのオークションに連れて行ってくれました。レビュー・カタログを見ていた私は、ヴァシュロン・コンスタンタンの4072(ピンクゴールド製、手巻きクロノグラフ)に一目惚れしてしまいました。その場にいた父がその時計を購入したときは、オークション後に、自分へその時計をプレゼントしてくれるとは夢にも思っていませんでした。 それは単に美しい時計というだけではなく、適切な時に適切な場所にいることの重要性を発見させてくれました。その瞬間に、父と一緒にいたという事実が、この贈り物をいっそう特別なものにしています。 20代前半で突然素晴らしい時計のオーナーになったことで、好きなもの、大切なものを、きちんとケアすることを学びました」
「また違った意味での贈り物もありました。10年ほど前、父はたくさんのジャケットやトラウザーズを手放すことにしました。それらは主に1970年代のスタイルで、私たち親子はサイズがかなり違っていたので、父は譲り渡すことは考えていませんでした。しかし私は、サイズが合わなくてもいいと思い、捨てないでほしいとお願いして、仕立て屋で直してもらいました。面白いことに、それらの服は私が着ると、父とはまったく違って見えるのです。ヴィンテージ感が増して、とてもいい雰囲気になります」
アレクサンダー・クラフト
「ここに写っているのは私の父です。父は1950年代にベルリンのオーダーメイド・テーラーで作られた彼の父(=私の祖父)のホワイトタイのイブニング・スーツ(燕尾服)を私に譲ってくれました。父はあくまでもファミリーの思い出の品として私に譲ってくれたのですが、私はチフォネリでお直しをしてもらい、あるクリスマスにそれを着て父を驚かせました」
彼の祖父が仕立てたテイルコートを着るアレクサンダー・クラフト氏(右)とその父(左)。
「父が私に譲ってくれたもうひとつの家宝は、私の曾祖父が所有していた銀製のトップを持つ乗馬鞭です。これはもともと東プロイセンにあったクラフト家の領地(第二次世界大戦後、長い間失われていた)から来たもので、2つの世界大戦を生き延びてきたものです。父はあるクリスマスの日に、それを私にくれました」
銀製のトップを持つ乗馬鞭を持つクラフト氏の父(左)。鞭はアレクサンダー・クラフト氏(右)に譲り渡された。
ジョージ・グラスゴーJr.
1958年にジョージ・クレバリーによって設立されたシューメーカー“ジョージ・クレバリー”は、彼の教え子であるジョージ・グラスゴー・シニア(現会長)と、グラスゴーの息子であるジョージ・グラスゴー・ジュニア(CEO&クリエイティブ・ディレクター)によって家族経営されている。
彼らは、優れたブランドの伝統を守ることを熟知している。また、何世代にもわたって受け継がれてきた物の歴史や、家族の絆を大切にしている。
「最初の品は、1929年製の八角形のロレックスオイスターで、9金製、ホワイトエナメルの文字盤にアラビア数字、ブルースチール製の針が付いています。これは何年も前に“ヴィンテージ・ウォッチ・カンパニー”で購入したものです。ロレックス初の防水時計のひとつであり、現在の所有者であることを光栄に思っています」
「もうひとつは、祖父が持っていた靴(黒いオックスフォード)です。祖父はそれを30年以上履き続けました。祖父が亡くなったときに父が受け継ぎ、去年のクリスマスに私にくれました。サイズがぴったりだったのです」
ルイジ・コルドネJr.
ルイジ・コルドネ・シニアが1950年代半ばにイタリア、アイエッリに設立したブランド、コルドネ1956は、高品質のシャツ作りで知られている。設立以来、小さな村のコミュニティの中で大きな役割を果たしてきた。現在はルイジ・コルドネJr.が指揮を執っている。
ルイジが最も大切にしているアイテムの数々が、現在も同社がすべての衣服を製造しているアイエッリで撮影されているのは、ブランド、そして親子にとって実にふさわしいことだ。
ルイジが父親からもらったプレゼントは、その土地に根ざしたものであるだけに、とても心に響くものだった。例えばこのトヨタ ランドクルーザーは、ルイジが生まれた日に父親がプレゼントしてくれたものだ。そしてこのように、今でも親子で楽しむことができるのだ。
あとルイジが大切にしているのは、ふたつの時計だ。ロレックスのデイト・ジャストと、エベラールのビッグ・クロワジエールは、どちらも父親のものだった。その美しさと思い入れから、今でも大切に保管されている。
クリス・モドゥー
「私のスタイルは、今も昔も父から影響を受けています。今は引退していますが、父は25年間以上もロンドンタクシーの運転手をしていて、ロンドンに関する百科事典のような知識を持っていました。彼は優れた審美眼を持っており、常に私の情報源となっていました。インターネットがなかった時代にはなおさらです。ティーンエイジャーの頃、私はクラシックなスタイルを好むようになり、カッタウェイ・カラーとダブルカフスのきちんとしたシャツが欲しくなりました。彼は、チェルシーに新しくできたシャツショップに、スマートな顧客がたくさん乗り付けていることに気づいていたので、ある日の午後、トーマス・ピンクのシャツを手に入れるために、私をそこまで連れて行ってくれたのです。これが、私がトーマス・ピンクで働くきっかけとなりました。 私の19歳の誕生日には、父はトーマス・ピンクの純銀製、刻印入りのカラーステーを買ってくれました。このプレゼントで私は、自分だけが知っている贅沢品を身につける、特別な陶酔を味わうことができました。30年以上経った今でも、これを身につけるたびに、『自信を持て、自分の信じることをやれ、他人に振り回されるな』という彼のアドバイスを思い出します。『他の奴なんか、気にするな』とね」
トーマス・ピンクのホールマーク入りスターリングシルバー製カラーステー。
ベネデット・デ・ペトリロ
イタリア、ナポリの人気テーラード・ブランド、デ・ペトリロの現オーナー、ベネデット・デ・ペトリロは、父から受け継いだ物を見せるのではなく、形に残らない精神を通して、父としての大切さを息子たちに伝えたいと思っている。
「父親は、日々の行動を通して、常に重要な価値観を子供たちに伝えていますが、本人たちが気づかないこともよくあります。今日、私が言えるのは、父が私に伝えてくれたのは、家族であること、正直であること、他人を信頼すること、それらが大切だという価値観です。私も自分の息子たちに同じことを伝えたいと思っています」
ベネデットとそのファミリー(1970年)。