THE RAKE’S GUIDE TO SURVIVING INTERNATIONAL TRAVEL

海外旅行・海外出張のためのレイキッシュ・ガイド

February 2022

海外への渡航が難しい今だからこそ、快適に、安全に、そして最高に旅行を楽しむためのヒントを確認しておこう。

 

 

 

by CHRISTIAN BARKER

 

 

 

左から右へ:俳優のマイケル・ケイン、妻のシャキーラ・バクシュ、ミュージシャンのリンゴ・スターと妻のモーリーン。1972年2月28日、ヒースロー空港にて。

 

 

 

 古代中国の哲学者である老子も、最近では数え切れないほどのビキニ姿のインスタグラマーたちも言っている。“千里の道も一歩から”と。経験上、その一歩は家の中で始まっている。ワードローブから荷物を詰め始めるときからだ。

 

 旅の荷物の理想は、預け入れのスーツケースひとつと機内持ち込みのキャリーケースひとつだけにしたいものだ。

 

「年に2回、アメリカでトランクショーのツアーを行いますが、4週間ほど滞在する場合でも、預ける荷物は大きなスーツケースひとつにするようにしています」と語るのは、ジョージ・クレバリー社のCEOで旅慣れたシューメーカー、ジョージ・グラスゴー・ジュニア。彼に、旅に持っていく靴についてのアドバイスを求めてみた。

 

「ワークアウト用のスニーカーと、アリゲーター製のローファーを1足ずつ。後者はジーンズに合わせてもいいし、スーツやパンツに合わせてもいい。よりフォーマルな場面では、バーボンやダークブラウンなどアンティーク仕上げのクレバリー“チャーチル”モデル(サイドエラスティックの内羽根ウィングチップ)を持っていきます。黒の靴よりも汎用性がありますから」

 

 ベンチメイドの靴を旅先でも良い状態に保つために、グラスゴーは軽量な木製のシューツリーの使用を勧める。「数年前に開発されたアジャスタブルなブナ材のシューツリーは、旅行に最適です。とても軽いのですが靴の形が保たれますし、履いた後もしっかり乾燥させることができます」。

 

 

アメリカの俳優、映画プロデューサーのダグラス・フェアバンクス・シニア(右)、1936年。

 

 

 売れっ子のフォトグラファーで、WEBメディア「Thousand Yard Style」主宰する、ロバート・スパングルもまた、グラスゴーと同じ3つの靴のルールを守っている。「いつも、ドレスシューズ、ラギッドだけどエレガントなブーツ、そしてカジュアルなシューズを用意します。どこへ行くにも、スーツと水着は持っていきます。水着を着てランニングやワークアウトは可能ですが、ワークアウト用のショートパンツでプールパーティに参加することはできませんから」。

 

 グラスゴーはトランクショーのために、フォーシーズンズやセントレジスなどの一流ホテルを、2週間以上にわたって渡り歩く。その間の商談では、目の肥えた顧客を満足させるため、常に最高の装いで臨まなければならない。「白シャツを3枚、青シャツを3枚、デニムシャツを2、3枚持っていきます。これらを洗濯してローテーションさせるのです。ネクタイは4本あれば十分。スーツも2、3着、ネイビーのカシミアジャケットはグレイのトラウザーズやダークジーンズに合わせます」。

 

 スムーズにパッキングできるよう、グラスゴーもスパングルも “ゴーバッグ”を用意している。すぐに出発できるよう予め準備しておくのだ。スパングルはこう語る。「頻繁に海外へ行く人は、まとめておくと楽ですよ。私の場合は、オーダーメイドのトラベル用シャツ、セーター、トラウザーズ、ワークアウト用品などを用意しています。それらコアアイテムの他に必要なのは、スーツと環境に合わせた服だけです」。グラスゴーもこう語る。「20年間使っている同じウォッシュバッグに、デイリー・グルーミングに必要なものをすべて詰め込んでいて、すぐに持ち出せるようにしています」。

 

 

ドミニカ共和国の外交官で社交家のポルフィリオ・ルビロサ。

 

モナコ公国のグレース王妃とレーニエ大公、そしてアリストテレス・オナシス。

 

 

 

 飛行機に乗ったら、飲酒に気をつけるべきだと言われている。確かに、ビジネスクラスやファーストクラスの座席に、小さな化粧鏡が付いている。鏡を見れば自身で酔い具合を確認することができるというわけだ。飲むときにはチェイサーを用意したい。専門家によると、機内では1時間あたり250ml程度の水を摂取する必要があるそうだ。キャビンは寒いので、温かい水やお茶(生姜は消化を促すとされる)、あるいはコニャック、カベルネ・ソーヴィニヨン、ストレートのウィスキーなど、常温の飲み物を選ぶといいだろう。お酒を飲んでも眠れない場合は、メラトニンを試してみよう。ネット上には、概日リズムを整えるための錠剤をいつ飲めば良いか、適切な時間を計算するツールさえある。

 

 長距離路線で熟睡するために、カシミアやシルクのアイマスクを使い、大判のカシミアスカーフを巻いてみてほしい。さらに、耳栓やノイズキャンセリング・ヘッドフォンを使用し、眠る1時間前には電子機器の画面を見ないようにしよう。ブルーライトは刺激物だ。エンターテインメントシステムにはエキサイティングな映画が多数用意されているがそれらは避けて、『キャッツ』などの退屈で気にならない音楽を再生して眠りにつこう。上空の空気は乾燥しているので、顔に保湿剤をたっぷりと塗ることも忘れてはならない。

 

 新型コロナウイルスの問題もあるので、定期的に手指消毒することをおすすめする。しかし、機内の空気は地上の公共の場よりも清浄であるという事実を知っておいてほしい。飛行機に使用されているHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルターは、機内を循環する空気中の微生物の99%を捕らえることができるのだ。

 

 長距離のフライトにおける秘訣をスパングルに聞いた。「着圧ソックスはおすすめです。疲れが軽減されるので、私はいつも履いています。体内時計を行き先のタイムゾーンに合わせることも大切です。どんな気分でも、睡眠を目的地の時間に合わせるのです」。

 

 

1957年、パリ南郊のオルリー空港に到着したカーク・ダグラス。

 

 

 

 機内での食事は、特定の食べ物がよりよいとされている。研究によると、パスタやパンなど炭水化物の多い食事は、高濃度のインシュリンによって体内時計の調整を早めると言われており、時差ボケを和らげる効果があるそうだ。ミシュラン三つ星を獲得しているシンガポールのレストランOdetteのシェフ、ジュリアン・ロワイエはこう語る。「上空では食べ物の味がまったく違うので、塩分、糖分、酸味には注意が必要です。軽くて繊細な味は、高地ではうまくいきません」。彼は最近、エールフランスのファーストクラスとビジネスクラスのメニューを開発した。「もし私が機内に食べ物を持ち込むなら、ハムやフルム・ダンベール(仏産のブルーチーズ)を挟んだバゲット・サンドイッチにするでしょう。ソーテルヌのような甘口の白ワインやシラーズのような力強い赤ワインによく合います」

 

 

ロサンゼルス国際空港を出発するブリジット・バルドーとギュンター・ザックス。

 

 

 

 着用するウェアは、快適さと安全性を両立させるために、通気性、撥水性、難燃性を備えたしなやかなウールやカシミアをおすすめする。万が一、機内で火災が発生した場合、可燃性の人工繊維は最悪の結果を招く。また、靴は履いておきたいものだ。CNNの番組『ビジネス・トラベラー』の司会者リチャード・クエストはこう語る。「離着陸の際には必ず靴を履いておくようにしましょう。飛行機から緊急脱出しなければならなくなったら、ソックスだけの足で滑り台を飛び降りたり、燃える航空燃料の中を走らなければならなくなります」。

 

 飛行機が海に墜落落ちてしまった場合は、悲しいことに状況は絶望的だ。「救命胴衣を着用することは、気休め程度にしかならないでしょう。着水に成功する可能性も、着水して生き延びる可能性もほとんどありません。とはいえ、デモンストレーション・ビデオの項目は重要なものばかりです。例えば、最寄りの非常口がどこにあるかを知ることは大切。自分の席と非常口の間の列数を数えておいてください。夜中に飛行機を降りなければならなくなったときや、煙が充満している環境でも、出口に辿り着きやすくなります」。クエストによると、離着陸時に発生する事故のほとんどは生存可能であると指摘する。「人を殺すのは、煙とパニックなのです」。

 

 詩人マヤ・アンジェロウが綴ったことは本当だったのだろう——“人生とは、我々が何回息をしたかではなく、息をのむほどの感動の瞬間を味わったかで決まる” ——紳士の皆さん、良い旅を。

 

 

イタリアの実業家で伊達男、ジャンニ・アニェッリ。

 

イラン最後の国王モハンマド・レザー・パフラヴィーの手に口づけをする軍人。