CHEF’S TABLE BY KATSUHITO INOUE

七十二候に合わせてメニューが変わる
6席だけのシェフズ・テーブル

August 2022

昨年オープンしたザ・リッツ・カールトン京都の「シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue」が食通の間で話題だ。

今回はその魅力の一片を紐解いてみたいと思う。

 

 

text yukina tokida

 

 

 

 

 

 京都・鴨川のほとりに位置する「ザ・リッツ・カールトン京都」。客室総数134、客室の平均面積50㎡という京都市内において最高水準の広さを誇る同ホテルは、2014年2月にオープンし今年8周年を迎えた、京都随一の立地に位置する“アーバンリゾート”だ。

 

 東山三十六峰を一望できるだけでなく、穏やかに流れる鴨川を望めるこの地は、古くは平安貴族たちが山から昇る月を見るために別邸を作ったともいわれている特等席。明治時代には、藤田財閥の創始者である藤田伝三郎がこの地に別邸を築き、のちにホテルフジタ京都として多くのゲストをもてなした歴史ある場所である。

 

 そんなホテルフジタ京都の跡地に立つこの「ザ・リッツ・カールトン京都」には、ホテルフジタ京都のおもかげをはじめ、至る所に京都らしさが散りばめられている。たとえばホテルエントランスの石垣は当時からホテルのシンボルであり、一度すべて洗浄された後に改めてこの場所に積み重ねられたものであるし、敷地内に点在する灯籠も当時からこの場所にあるもの。また、エントランスの横に飾られている琵琶のオブジェは、京都の作家である名和晃平氏による作品であり、フロントデスク横のソファエリアの天井には京都の和傘がモチーフになった照明が配されている(ちなみに館内に飾られているアート作品は全409点!)。

 

 明治41年にこの地で藤田伝三郎男爵の邸宅として利用されていた夷川邸は、その後ホテルフジタ別邸のステーキハウスとして使用されていたもので、今はイタリア料理「ラ・ロカンダ」内に移築されている。バーを過ぎ、ラ・ロカンダの店内を進んでいくといきなり現れる日本家屋は、靴を脱いで上がる畳張りの別世界。ザ・リッツ・カールトンのラグジュアリーで洗練された世界観に身を置きながら京都の奥ゆかしい文化を体感できる、ホテル内屈指の名物スポットともいえよう(テーブルと椅子のスタイルのため、正座をする必要はないためご安心を)。

 

 

「ラ・ロカンダ」内にある日本家屋「夷川邸」。

 

 

夷川邸に隣接する個室。座席数6席だけの特別な空間だ。

 

 

 

 そんな夷川邸に隣接する個室で昨年の8月から始まったのが、6席だけのダイニング「シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue」だ。エグゼクティブ イタリアン シェフ井上勝人氏が、個室内のプライベートキッチンで、ゲストの目と鼻の先で、ひと品ひと品、前菜からデザートに至るまで、すべての料理を作り上げていく。揚げる音、焼き上げる音、炭火の燻煙の香り……一品一品で異なる、芳醇で豊かな香りに、想像力は掻き立てられ、食欲が絶えず刺激されるだろう。

 

 同ダイニングのジャンルは、イタリアンという枠には収まることがない「イノベーティブ」。1年を72に分けた七十二候に基づいてテーマが決められており、旬の食材を旬のうちに楽しめるようにとありとあらゆる工夫が凝らされている。テーマが4日おきに変わるとともに、リピーターの方にも楽しんでもらえるようにと、一度として同じ料理を出すことがないという。同じ食材だとしても、季節ごとに異なる素材の味わいや全体のバランス感によって調理方法や味付け、さらには魚の絞め方まで変えているほどだ。

 

 

エグゼクティブ イタリアン シェフの井上勝人氏。

 

 

 

 井上氏が大事にしているのは「食材を余すことなく使う」こと。いまでは当たり前になっている「サスティナビリティ」ではあるが、京都において古くから大切にされている文化のひとつである「始末の心」を大事にしているのだという。

 

 例えば、唯一の定番メニューである「フォカッチャ」には、その日使用する野菜の皮やヘタ等を乾燥させ、オーブンで焼き上げて粉にしてからフォカッチャに練り込んでいる。ひとえにフォカッチャとはいえ毎回違う食材が使用されている楽しみが隠れているのだ。またコンポストを利用し、使用した食材の切れ端等を肥料にして、仕入れ先の農園へ持っていっているという。文字通り食材を循環させ、“初めから終わりまで”、すべてがひとつの輪でつながる取り組みを積極的に行なっているのだ。

 

 

ディナー開始時、ぷるんぷるんの生地がテーブルに運ばれ、最後の仕上げが施された後、オーブンで焼き上げられる。

 

 

しっとりモチモチな、唯一の定番メニュー「フォカッチャ」。

 

 

井上シェフ(左)とホテル専属庭師の鈴木氏(右)。

 

 

 

 また、テーマに沿った季節ごとの植物や苔が彩るテーブル上の装飾においても、館内・敷地内で切らざるを得なかった植物等を利用するという徹底ぶり。ホテル専属の庭師と井上シェフが毎日話し合って作り上げる空間は、足を踏み入れた瞬間から、非日常を存分に味わわせてくれる。

 

 実は、井上氏は東京のブルガリ・リストランテでエグゼクティブシェフのルカ・ファンティン氏とともに腕をふるっていた人物。その当時から付き合いのある農家も京都には数多くあるといい、京都をはじめとする周辺地域から集めたベストな食材をメインに振る舞ってくれる。

 

 訪れる度に異なる料理の数々はサプライズの連続だ。今回は筆者が伺った6月23日、第28候の乃東枯(なつかれくさかるる)をテーマに据えたメニューを少しご紹介したい。

 

 18時一斉スタートのディナーは、その日使われる食材の説明から始まる。この日は、鬼鯵や1年熟成させたメークイン、宇治の「ひらがいたまご WABISUKE」、水茄子や貴重な天然のアミタケ、伏見の万願寺トウガラシ、八尾の枝豆、宮崎のマンゴー、高知のフルーツトマト、花付きズッキーニやドウマンカニ、川津エビや琵琶湖の稚鮎など、京都近郊を中心に、この時期に旬を迎える食材が勢揃いしていた。

 

 これらの食材が、茹で、揚げ、炭焼き、揚げ焼き、グリル、煮る……、はやまた冷・暖、ひとつとして似通うことなく、多彩な調理方法で饗された。

 

 

第28候の乃東枯(なつかれくさかるる)をテーマに据えた日の食材の一部。右は川津エビ。生きがよくピチピチと跳ねていた。これが10分後には茹で上げあれ、見事なブルスケッタに。

 

 

「川津エビのブルスケッタ」の一例。筆者が伺った際には、伏見トウガラシと合わせられていた。

 

 

 

 たとえば稚鮎は、一度揚げてから炭で焼くことで、身がふっくらジューシーな仕上がりに。一般的に蓼酢(たでず)でいただくことが多いと思うが、イタリアやスペインでも修行経験のある井上氏が提案してくれたのは、カルピオーネ(いわゆる甘酢)を泡仕立てにし、酸味のあるふわふわな泡を稚鮎に付けて楽しむ新しいスタイル。泡の下には、赤い野菜ゼリーに潤菜、水茄子、きゅうりが隠れており、最後まで余すことなくいただける、変化に富んだ楽しい一品であった。

 

 また新鮮な鬼鯵は、軽く炙り、とうもろこしスープやホエーのスプーマ(泡)、レモンやライム、そして鮮やかなハーブを飾り付けた一品に。酸味ととうもろこしの甘みが、ぷりぷりな鬼鯵の身と合わさって、爽やかでありながらまろやかな、絶妙なコンビネーションを生み出していた。

 

 なお、こういった魚は井上氏が信頼を置いている数々の魚屋から仕入れているもので、ゲストに提供する時間や料理方法等を彼らに伝え、絞め方等を逐一決めているという。例えばストレスや熱を持っている釣りたてを絞めるのはいいことばかりではなく、きちんと落ち着いた状況で締めることがいいこともあるし、少し泳がせて餌も吐かせてから締めるのがいい場合もあるとか。しかし、餌が足りない状態だと、身が痩せてしまうこともあるため、魚をベストな状況で提供するためには、料理のスタイルによって適した状態を知り尽くしている彼らとの対話が大事なのだという。

 

 とはいえ、これは魚だけにとどまらず、たとえば冬と夏では味付けの仕方、野菜の旨味の出し方や重ね方も変わってくるため、同じ肉を使うにしても付け合わせを変えるなど、食材の状態に合わせて提供する方法、調理方法を柔軟に変え、旬のものを旬のうちに、その旨味を最大限に引き出せるように趣向が凝らされている。

 

 試行錯誤を繰り返しながらメニューを構成しているため、訪れるたびに異なる味わいに出合わせてくれる、プライベート感満載の魅惑のダイニングなのだ。井上シェフの朗らかな口調での丁寧な説明も相まって、“次はどんな料理だろう、もっと知りたい、もっと食べたい”そう思わずにはいられないひと時となるだろう。

 

 なおオープン1周年を記念し、今月末には、井上氏の長年の友人であり元同僚でもある「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」のエグゼクティブシェフのルカ・ファンティン氏が駆け付け、ザ・リッツ・カールトン京都で初めてタッグを組む2日限定のスペシャルディナーも予定されている。

 

 ふたりの饗宴を楽しめる機会がふたたび来るとは、そこかしこから歓喜の声が聞こえてくる気がする。食通ならずとも、この絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。常に進化を続ける井上氏が手掛ける料理に、誰もが虜になるだろう。

 

 

「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」のルカ・ファンティン氏(左)と井上勝人氏(右)。

 

 

「シェフズ・テーブルby Katsuhito Inoue with Luca Fantin」

日程:2022年8月26日(金)、8月27日(土)各回定員10名

時間:17時半開場、18時一斉スタート

場所:ザ・リッツ・カールトン京都1階「サレッタ プリバータ」及び夷川邸「千鳥の間」

価格:44,275円(税・サービス料込)

※4種のワインペアリング付き63,250円(税・サービス料込)

 

 

お問い合わせ

TEL. 075-746-5522(ザ・リッツ・カールトン京都 レストラン予約直通)

https://chefstable.ritzcarltonkyoto.com