ATTAIN PERFECTION

赤峰幸生が最後に辿り着いた服 第1回:アンダーステートメントなミディアムグレイの服

December 2022

クラシックを追求してきた赤峰幸生氏が導き出した、紳士の装いに不可欠な服とは?第1回は、赤峰氏が最も愛する「ミディアムグレイ」だ。
text yuko fujita
photography setsuo sugiyama

赤峰幸生 / Yukio Akamine1944年、東京都生まれ。90年、自身の会社インコントロを設立。98年、イタリア生産による紳士服ブランド「Y.Akamine」をスタート。2008年、カスタムクロージングのブランド「Akamine Royal Line」を立ち上げる。今、大切にしているのは「クラシック」の本質を若い世代に継承してもらうこと。今や20代、30代の赤峰ファン多数!

「長年着ているリヴェラーノ&リヴェラーノのミディアムグレイのフランネルスーツです。だいぶ着込んで毛が落ちて、ストライプが褪せてきていますが、それがまたいいんです。よりフォーマルな場でしたらシャークスキンやトニックを選びますが、ある程度のフォーマルな場にはフランネルを着ていくことも多いですね」。ハンガーにかかったコートはアカミネロイヤルラインの新作で、1920年代後半のコートがベースになっている。ヘリンボーンウールを毛搔いた650g/mの生地で、着込むほど身体に馴染んでいく。

 赤峰幸生氏が長年語り続けてきた“アカミネイズム”は確実に浸透していて、着るほどに味わいが増す生地で服を仕立て、長年着て身体によく馴染んだ“自分の服”を素敵に着て楽しんでいる人が確実に増えている。THE RAKEの記事を読んで赤峰氏のことを知り、ファンになった20代も少なくないそうで、赤峰氏のもとを直接訪ね、スーツをオーダーしていく方がすごく増えているという。本連載では、真のクラシックをさらに次世代へたっぷりと伝えてもらうべく、御年78歳になる赤峰氏が辿り着いた“イズム”を改めて語っていただく。

「どのようなシチュエーションでどのような場へ行き、誰と会うのか。服を着る際に何よりも大切なのは、そこにあります。そして、私にとってどこに着て行っても恥ずかしくない、最もエレガントな服が、ミディアムグレイのスーツになります。私はチャコールグレイもライトグレイも着ません。ミディアムグレイが“自分の中でのグレイ”という基準があって、そこからミディアムライトグレイまでのトーンを楽しむことが多いですね。着物の世界では“四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず)”という言葉があるように、100色のグレイを楽しむ粋な世界があるわけですよね。無彩色の美しさというものがあって、そこがグレイを軸に置いている理由のひとつです」

 実際、ミディアムグレイの世界の中で、赤峰氏が最も好きだというフランネルを筆頭に、シャークスキンやモヘア、マットウースやトロピカル、キャバルリーツイルなど、さまざまな素材を楽しんでいる。

「濃淡感のあるグレイというのかな、霜降りのミディアムグレイは特に好きですね。出すぎたものは好きではないですけど、糸の太さや組織や仕上げによっていい塩梅の表情を備えたものは、無彩色のグレイに小洒落た感じを与えてくれます。ミディアムグレイはトラウザーズもどの色とも合わせやすくて重宝しますし、黒靴にも茶靴にも合わせられるという点でも万能なんです」

英国W.ビル社のキャバルリーツイル生地で仕立てたアカミネロイヤルラインのオープン3パッチポケットスーツ。無彩色で合わせた氏の装いの、何とエレガントなことか。黒のエプロンダービーはスートル マンテッラッシ。

1914~36年の『Vanity Fair』誌上に掲載された俳優やミュージシャンの写真を集めた1冊と、フィルムノワールの世界を描いた『The Noir Style』は、当時の役者のグレイの装いに想像を膨らませられるという。