April 2022

WAKO : PAST, PRESENT AND FUTURE

日本の伝統を刻み続けるセイコーと和光物語

text yoshimi hasegawa

日本機械学会の選定する「2014年度機械遺産」に認定されたセイコーの腕時計3本。左:日本で製品化された国産初の機械式腕時計ローレル(1913年)。中:世界の高級機械式時計の技術水準に肩を並べた(初代)グランドセイコー(1960年)。右:世界の腕時計製造の歴史の改革となり、新たな歴史と市場を創出した世界初のクオーツ腕時計クオーツアストロン(1969年)。海外の時計製造に追従していた日本が、国産腕時計のみならず世界の腕時計の技術進化の歴史を牽引したことを示す貴重な文化的遺産である。

 セイコーは日本の腕時計製造の歴史を常に牽引してきた。世界で腕時計の普及が始まると、早くも1913年に国産初の腕時計ローレルを発売。ムーブメントの直径26.65mmという小型化に成功し、社内での設計技術、工作機械開発が推進された。翌年の1914年、第一次世界大戦により腕時計の需要は飛躍的に高まった。

 1924年、新ブランドSEIKOが誕生。関東大震災の翌年の新たなスタートへの思いがこのブランド名には込められていた。 第二次世界大戦後の経済復興と共に、1956年には初の独自設計の紳士用機械式時計マーベルを発売する。「狂わない、壊れない、美しい」の原理法則を体現し、通産省主催の国内コンクールで上位を独占した。

 1960年にはセイコーの過去の技術を結集したグランドセイコーを発売。初代グランドセイコーはマーベルの後継機種クラウンをベースに、世界最高水準の高精度化を追求。当時世界最高を誇った国際クロノメーター上級検査基準より厳格なグランドセイコー規格を設け、一本一本に精度を保証する歩度証明書を発行した。

 1964年は東京オリンピック公式計時を担当し、1968年のジュネーブ天文台コンクールでは、過去最高の精度調整の記録を打ち立て上位を独占。名実ともに世界最高水準の精度と品質を有する機械式腕時計の評価を確立する。

 時計史に名を残す革命を起こしたのは1969年。セイコーは世界初のクオーツウォッチであるアストロン35SQを発売した。機械式時計を遥かに超える精度、高い耐衝撃性を持つクオーツ時計の登場は機械式高精度時計に対する価値観を一変させた。「クオーツショック」は、機械式時計を主とするスイス時計産業のみならず業界全体を一変させる革命となった。

 セイコーのクオーツ方式は後に世界標準となり、その卓越性を証明している。

 1997年に社名をセイコー株式会社とし、クオーツ時計に次ぐ画期的な製品を世に送り出した。

 1999年、世界初、独創的な機構を持つスプリングドライブを発表。この時計は、機械的な力(ぜんまい)、電気信号(正確な信号:IC、水晶振動子)、磁力(ブレーキ:ローター・ステータ)の3つを、独自の調速機構「トライシンクロレギュレーター」によって制御することで作用し、正確な秒針の動きを生み出す。この3つで構成されるトライシンクロレギュレーターによって駆動を制御する。最先端のクオーツ技術と伝統の機械式技術が融合した傑作だ。

左:専用の機械式キャリバーを復活させたグランドセイコー9S5シリーズ(1998年)。 右:独自の調速機構「トライシンクロレギュレーター」で駆除・制御することで、クオーツと同程度の高精度を実現した画期的な機構スプリングドライブ(1999年)。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 44
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