藤田雄宏責任編集
THE RAKE ON NEW LUXURY

THE RAKEが選ぶ、いま
ニュー・ラグジュアリーなアイテムとは?

December 2020

2020年、社会は大きく変容を遂げた。
人々の心の中も大きく変われば、当然ながら嗜好にも変化が起こる。
THE RAKEが考える、ニューラグジュアリーとは?

text yuko fujita
photography jun udagawa
styling akihiro shikata

Yuko Fujita / 藤田 雄宏THE RAKE JAPAN 副編集長
1975年生まれ。学生時代から雑誌制作に携わり、2014年、『THE RAKE 日本版』の創刊とともに同誌副編集長。2015年、THE RAKE JAPANのイタリア支局員として愛してやまないナポリに赴任。この日のスーツはそのときに知り合った友人のアレッサンドロ・グエッラ氏に仕立ててもらったもの。自身が常に自然体でいられることが、これからのニューラグジュアリーだと考える。

 今、世界はこれまで経験したことのない状況に置かれていて、ラグジュアリーマガジンを謳っている『THE RAKE 』誌のいち編集者として、これからのラグジュアリーはどこへ向かっていくのかいろいろと考えさせられたが、自分自身が導き出した答えはごくごくシンプル。自身が自然体でいられることに重きが置かれるようになっていく、との考えに至った。

 ここ最近、何度かご一緒する機会があったスピーゴラの鈴木幸次さんサルトリア コルコスの宮平康太郎さんも、最新のオーダー会では今までと変わらず凄い数の注文を取っていたけれど、同時に新たな試みもしていて(パンデミック以前から計画していたことだが、今の流れと偶然にも合致していた)、その内容に新しいラグジュアリーの方向性、答えがあると僕は思うに至った。

 まず面白かったのは、“スピーゴラ レッジェーラ”という、マッケイ製法によるスピーゴラ初となる既製のスリッポンだ。スピーゴラのビスポークシューズが放つ力強さとはややイメージが異なったので初めて見たときは合点がいかなかったが、幸次さんが履いているのを見てすぐにピンときた。サルトリアで仕立てた服を着ているイタリアのおじさんたちは、なぜか足元は大抵軽やかなマッケイの靴を履いていて、昔はそれがちょっと不釣り合いに思えたけれど、最近はあの力の抜けた感じ、自然体な感じがとてもカッコよく感じられ、それは幸次さんも強く思っていたそうで、「日本人もそろそろそういう感覚になってきてもいいんじゃないかな」と考えて企画したのだという。なるほど、実際に足を入れると、素材と作りのよさも手伝って大変ソフトな履き心地で、仕立てたスーツを着ていてもこのくらい気負いのない足元だとより洒脱な感じがするし、それがとても新鮮だ。今の時代、このくらい気負ってない足元のほうがむしろカッコいいのでは、と思えてくる。

 ところで僕はフィレンツェに行くたびに宮平康太郎さんのサルトリア コルコスを訪ねるのだけれど、ここで仕立てている人のほとんどは、かなりの着数を仕立てているリピーターだ。そういったお客さんがオーダーした製作途中のコートを見せてもらうと、カバンやコッロ バスタルドが多かったのを覚えていて、ルビナッチやパニコやソリートなどで見るショート丈のコートを思い出し、ビスポークを仕立て続けている人たちは、この手のリラックスして着られて、自然体のエレガンスを備えたコートへと向かうのかな、と感じた。ちなみに康太郎さんは10月に帰国して開いていたオーダー会で、セラファンのメイド・トゥ・オーダーの注文も受けていた。今回かなりの数を取っていたし、肩肘張ってお洒落を楽しむというよりは、自身が快適で、心を解放してくれるような服がこれからのラグジュアリーなのかな、と思った次第である。

 そして、もうひとつ気になっているのが、そういった中でシンプルながらも究極的に美しいものを作る、日本人が手がけているブランドだ。シンプルな美しさとは永遠に美しいものであり、それは昨今の“サステナブル”ともぴったり合致する。フィレンツェに工房を構えているSaicの村田博行さんの鞄は今の時代の雰囲気に合った柔らかで有機的なフォルムを備え、どこまでも美しい。イル クアドリフォリオの久内夕夏さんも自身の工房でオーダーベルトを作っており、これからの活躍が楽しみだ。質実剛健な尾州産ウールのイメージを覆す、生地の整理工程でどこまでもエレガントに美しくしたスローのマフラーも面白い。

 身に着けて心地よく、自身が自然体でいられるもの、シンプルかつ上質で飽きがこず、ずっと大切に使い続けられるもの。マインドもよりシンプルに捉えるのが、これからのニューラグジュアリーになるのでは?

力の抜けた感じでありながら大変美しいフォルムのマッケイスリッポン。ベルジャンシューズ的な雰囲気もあるが、ソールに厚みを持たせており、履き心地は断然快適。タッセルスリッポン各¥88,000、サドルがリアルクロコダイルのローファー¥98,000 Spigola LeggeraAfterhours

帰国時のオーダー会やイベントで1サイズ刻みでオーダーでき、袖丈と着丈を調整できるシステムで注文を取ったセラファンのディアスキンブルゾン(納期は約2カ月〜)は大人気だった。裏がカシミアのタイプで¥390,000、裏がムートンのタイプで¥410,000(以上オーダー価格) SeraphinSartoria Corcos

ミスター・スーペルイタリアこと神戸のビスポーク靴職人の久内淳史さんの奥様、久内夕夏さん。フィレンツェでの修業経験があり、絞りの革小物を得意としている。夕夏さんが手がけているオーダーベルトは、5ページ目にて紹介。

本記事は2020年11月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 37

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