February 2018

THE LIFE TEUTONIC

ゲルマンの遊び人たち

text nick scott

 気まぐれなダイナミズムは富裕層の伝説を明らかにするが、もうひとりのデカダン派、プリンス・ヨハネス・フォン・トゥルン・ウント・タクシスにまつわるエピソードを聞くと、ドイツの血を引く富豪の浪費癖は遺伝によるものではないかと思わずにはいられない。

 ヨハネスは、15世紀の創業以来300年にわたってヨーロッパの郵便事業を独占して富を得た一族である。快楽主義の教祖ともいえる彼の人生のクライマックスは、500室もあるザンクト・エメラム城で1986年に自ら主催した60歳のバースデーパーティだろう。

 このパーティでは、ギュンター・ザックスやミック・ジャガーと当時の妻ジェリー・ホールが、サウジアラビアの兵器ディーラーの隣でシャンパンをがぶ飲みし、ロブスターをつまんだ。

 ヨハネスはエキセントリックだった。ドイツで最も裕福な貴族であり、国内最大の地主でもある彼(総資産30億ドル)は、バイセクシュアルで悪ふざけも好きだった。ディナーに下剤を混ぜたり、女性のドレスに死んだニシンを滑り込ませたりといった悪戯を仕掛けたという。

 ヨハネスの銀行ネットワーク、ブルワリー、ブラジルの土地所有会社、ドイツの土地、宮殿、城、美術品を相続した息子のアルベルトが8歳から「最年少ビリオネア」リストの常連になったのも無理はない。いまや33歳になり、レーシングドライバーとして準優勝した経験もあるアルベルトは、父のライフスタイルを受け継ぐにふさわしい後継者といえよう。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 12
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