THE HOLY GRAIL OF PRECISION

精度への飽くなきロマン

October 2020

text tetsuo shinoda
issue10

シースルーバックからは鎖引きのフュゼ・チェーン伝達機構などが見える。

 フェルディナント・ベルトゥーの功績として最も有名なのは、安全に航海するために必須のマリンクロック(海洋高精度時計)の開発だ。開発競争こそイギリスに先を越されたものの、フェルディナント・ベルトゥーが製作したマリンクロノメーターの精度も極めて優れており、その功績から“フランス国王と海軍の時計・機械職人”という称号を与えられた。

 ここに紹介している時計「クロノメーター FB 2RE」はフェルディナント・ベルトゥーが製作した「マリンクロック No.6」から着想を得ている。ダイヤル周りはシンプルな3針時計だが、そのメカニズムは、高精度のために徹底的に考え抜かれている。しかもトゥールビヨンなどの派手な機構ではなく、ゼンマイトルクの制御によって精度を高めるという古式ゆかしい方法に力を注いでいるのが特徴。極小チェーンを使って歯車を回転させるトルクを安定させる「フュゼ・チェーン伝達機構」や、精度を司るテンプへの力の伝達を安定させる「ルモントワール・デガリテ」といった伝統的な時計技術を蘇らせ、この時計に採用しているのだ。これらの機構は表側からは見えない。シースルーバックとケースサイドの小窓から子細に鑑賞できるのは、この時計のオーナーだけの特権なのである。

 何かと効率化が好まれる時代の中で、“精度”というロマンのために手間をかけて時計を作るというのは、非常に贅沢なことだ。この時計が表現しているのは時間ではなく、時計への情熱なのである。

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発想のもととなったフェルディナント・ベルトゥー製作の「マリンクロック No.6」。

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脱進機のところに組み込まれた「ルモントワール・デガリテ」は、時計を正確に動かすカギを握る機構である。

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ケースサイドに窓があり、ここからも機構が見える。これもマリンクロックに備わっていた構造を再現している。

本記事は2020年9月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 36

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