The British Bespokes vol.2

英国ビスポークシューメーカーとの一問一答

January 2020

text yoshimi hasegawa
photography james holborow

Gaziano & Girling
ガジアーノ&ガーリング
伝統を超えた先にあるもの
名だたる英国シューズメーカーでのキャリアを持つトニー・ガジアーノ氏とディーン・ガーリング氏により2006年に設立されたガジアーノ&ガーリング。英国靴の概念を変えた業界のゲームチェンジャーによる新たな挑戦。

デザイン、ラスト製作等を担当するトニー・ガジアーノ氏(左)と製作と経営を担当するディーン・ガーリング氏(右)。

 2019年1月28日、この日はガジアーノ&ガーリング(以下、GG)にとって記念すべき日となった。プリンス・オブ・ウェールズ(以下、チャールズ皇太子)がノーサンプトン州ケタリングにある同社の工場を訪問したのだ。記念の特別モデル「セント・ジェームズ」にはチャールズ皇太子の紋章をかたどったメダリオンが飾られた。

英国王室に認められた靴 チャールズ皇太子の住居、クラレンスハウスに赴き、採寸を行ったトニー・ガジアーノ氏に話を聞いた。

―チャールズ皇太子を採寸するという経験は非常に稀有な体験だと思いますが、いかがでしたか?

「チャールズ皇太子の寝室で採寸させていただいたのですが、初めて伺ったとき、なんと彼は寝室のドアの裏に隠れていたんです! とてもフレンドリーな方で、採寸もスムーズでした」

―今回の訪問は英国王室によってGGのクラフツマンシップが認められたということでしょうか?

「この訪問はノーサンプトンのシューメイキングの伝統とクラフツマンシップを奨励する目的で行われたものです。同地にある最古と最新のシューズメーカーを訪問され、最新のシューズメーカーとしてGGが選ばれました。今後、受注が継続する可能性もあります。新規のメーカーが選ばれることは珍しいですし、今回の訪問は大変な栄誉だと考えています」

―ノーサンプトンには英国シューメイキングの長い歴史がありますが、GGの靴にはそれとは異なる、突出した独自の美学があります。それは一体、どこから来たものでしょう?

「ノーサンプトンには軍靴に始まり、既製靴を製造してきた長い歴史があります。過去、他のメーカーで仕事をしていたときには、そうしたある意味、頑強な木型をどう変えれば美しいデザインの靴が作れるのか、自分の中に明確なイメージがありました。私が理想としているのは1920年代のロンドンで作られていたエレガントなビスポークシューズです。その美しさや華やかさを現代的に解釈して再現したい。快適な着用感はもちろんですが、お客様の手に渡ったときに飾っておきたくなる靴、そう思っていただければ嬉しいですね」

―ビスポークであればあらゆるデザインが作れるわけですが、よい靴のデザインとはなんでしょう?

「デザインとは非常にデリケートなものです。私はお客様が『ワオ!』と思うような靴は作りたくありません。世の中の90%のデザインはデザインし過ぎています。靴のデザインに限らず、素晴らしいデザインはほとんど変わっていません。変える必要がないのです。ポルシェ911のようにタイムレスです。靴のデザインにはプロポーションとの黄金比率があり、靴を見たときに、これが正しいと感じる、それがよいデザインです」

―デザイン面での独自性を語っていただきましたが、技術面でのガジアーノ&ガーリングならではの強みとは?

「すべてインハウスで作っていることです。このファクトリーにはビスポーク部門も含め、約20人が働いています。加えてディーン(・ガーリング氏)が率いるノリッジ(イングランド東部)の工房にも4人の職人がいます。ひとりの例外的な職人を除き、すべてGGの靴はインハウスで作られます。その職人に頼むのは彼にしか出せないクオリティがあるからです。インハウスで作ることでGGの哲学を一貫してスタイルと作りに反映した靴、クオリティも均一で高いものができる。これが多くを外注に出す他社との違いです」

―クラシックな靴作りの世界でも変革が起こっているそうですね。ここ10年で最も変わったことは?

「素材の点ではそこまで大きな変化はありません。最も変わったのはテクニックでしょう。より高い賃金を払って一足にかける時間を増やし、品質を上げようとしたが、10年前は新しいことに挑戦する職人は少なかった。ここ10年で、ビスポークシューズを学びたいといってくる職人が増えています。彼らは物づくりへの情熱があり、常に向上しようという気持ちがある。新しいことにも挑戦をいとわない。その姿勢の違いはテクニックの違いとなり、靴の完成度に表れています」

インハウスならではの強み ダニエル・ウィーガン氏は2009年にGGに入社。現在はビスポーク部門の責任者を務め、世界各地へのトランクショーも頻繁に行っている。

―ビスポークの責任者であるわけですが、THE RAKE JAPANの読者がGGの靴を買う理由を教えてください。

「世界最高の靴だからです(笑)。私たちは工場も移転拡張して技術改良にも励んでいます。クオリティは常に向上しているから今の靴が最高の靴なんです」

―ビスポーク部門は若い職人が多いようですが、インハウスで作るメリットを教えてください。

「地元から来たクリッカーのサムやドイツから来たルイスなど、国籍はさまざまですが、みな若いチームで引退は考えられません。外注でなく、ひとつの部屋で作る意義はトレーニングという意味でも、品質を維持する面でも大きいです。なにより自分たちのスタイルを踏襲できる。それが最も重要です」

―最も人気のある靴はなんですか?

「いろいろ持っている人はクロコダイルなどエキゾティックレザーに興味を示しますが、まずはセント・ジェームズⅡやローファーといったコンサバティブなスタイルを選ぶ方が多いですね。コンサバティブなモデルでもパティーナで遊び心を演出したり、自分流にカスタマイズできるのが人気の理由でしょう」

グレンハッチェンレザーを使用したビスポーク、コーニッシュモデル。三角形のシャンクから生まれる華麗なフィドルバックウェストこそGG のシグネチャーだ。

1920年代に好まれたスティングレーレザー製クーパー。阪急百貨店のために作られた特別モデル。1枚のアッパーをスティングレーで作るには高度な技を要する。

サヴィル・ロウのストアでは既製靴、MTO、ビスポークを取り扱う。

重要な工程、クリッキング作業を行うサム。

写真のビスポーク部門をはじめ、ケタリングにある自社ファクトリーでビスポーク、MTO、既製靴のすべての工程を行っている。ビスポークの技法と品質を既製靴でも展開している。

フィッティングを終えた靴。カットして目視でもフィッティングを確認。ビスポークならではの細かな調整が快適な履き心地を生む。

ビスポーク部門の責任者、ストックホルム出身のダニエル・ウィーガン氏。2019 年のワールドチャンピオンシップ・イン・シューメイキングでも世界の強豪を抑え優勝。その卓越した技術にはますます磨きがかかっている。

Gaziano & Girling
ガジアーノ&ガーリング
39 Savile Row,London,W1S 3QF
TEL.+44(0)207 439 8717
www.gazianogirling.com

THE RAKE JAPAN EDITION issue 30

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