PARADISE FOUND

コリン・テナント男爵が作った島

May 2018

text james medd

デヴィッド・ボウイの家(1994年)。

 マスティク島は驚くほど質素だった。ザ・ローリング・ストーンズのビジネスマネージャーであるプリンス・ルパート・ローウェンスタインも、島によく出入りしていたひとりで、70年代初期には「イングランドの南海岸か、ノルマンディーにある休暇村のような雰囲気だ」と述べた。

 しかし、人々は島を訪れ続けた。70年代初期の来訪者の中には、ポール・ニューマンやラクエル・ウェルチがいた。テナントは、外見的魅力を備えた者だけが土地の買い手として認められるという噂を流したり、ヘリコプターで島の上を飛行した野暮な男を追い払ったエピソードを披露したりして、大げさな宣伝を続けた。

 そんな彼にとって、マーガレット王女に次ぐ強力な後押しとなったのは、島の北側にミック&ビアンカ・ジャガー夫妻が和風の家を建てたことだった。夫妻の存在は、島にスタジオ54のようなきらめきをもたらし、他のスターたちの心をとらえた。

 デヴィッド・ボウイも、島に自分のヴィラを建てた。ブリタニア・ベイ・ハウスと呼ばれたこのヴィラは、日本と北欧の様式を取り入れ、多くの部屋を持っていた。島にはフランス風シャトー、ポストモダン建築といった、奇抜な建築物が建ち並ぶが、ボウイのヴィラはひときわ目立つ存在だった。かつて彼は、アーキテクチュラル・ダイジェスト誌にこう語った。

「あれは思いつきを形にしたものなんだ。マスティク島はファンタジーの島だからね」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 22
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