HERMÈS LE CUIR
エルメスの革の物語 第2回

エルメスの幸せな職人たち

September 2021


上と下(表と裏):斜めのカッティングを施されたクラッチバッグ。ストラップは取り外し可能で、スマートフォンやタブレットなどをコンパクトに収納できる。クラッチバッグ《カバヴェルティージュ・クラッチ》サイズ:30×20×0.5cm ¥315,700 Hermès(エルメスジャポン Tel.03-3569-3300) ©Hermès

 例えば、ヴォー・エプソンとヴォー・トーゴを同じ方法で裁断したりはしないし、バッグ《コンスタンス》とバッグ《バーキン》の組み立て方は同じではない。素材ごと、モデルごとの製作プロセスがひとつの訓練メニューに相当する。

 たいていの場合、実習はバッグ《ケリー》から始められる。なぜなら、最も多くのサヴォワールフェールが必要とされるからだ。そのプロセスをひと通りマスターした職人は、他のモデルでさらにノウハウを学んでいく。

ひとりが、ひとつのバッグ ひとりの皮革職人が36の革のピースを縫い、ステッチをかけ、貼り合わせ、組み立て、いくつかの金属の部品を使ってバッグ《ケリー》を完成させるのに、15時間から20時間が必要だ。物事を正確に行うには時間がかかるのだ。“ひとりが、ひとつのバッグ”というメゾンの哲学に沿い、職人は最初から最後まで、すべてを自身の作業台の上で行う。

 よい縫製はよいパリュール(革漉き)から。よいパリュールはよい分割から、よい分割は皮革の細部と欠点の丹念な分析から、といわれる。それぞれの工程が繋がり、優れたもの作りの連鎖となるのだ。オブジェには作った職人の魂の一部が宿る。自分の手でつくったオブジェは、ひと目見るだけで区別できるという。

上と下(表と裏):8枚のカードを収納できるスリムなカードケース。カードケース《シティ》サイズ:8.3×12cm ¥125,400 Hermès(エルメスジャポン Tel.03-3569-3300) ©Hermès

本記事は2021年7月26日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 41

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Contents

<本連載の過去記事は以下より>

エルメスの道具、そして作られるもの

エルメスのバッグ、その素晴らしさ