HERMÈS LE CUIR
エルメスの革の物語 第2回
エルメスの幸せな職人たち
September 2021
バッグの表面を指で触り、その“触感”を確かめる。© Chris Payne
エルメスのメゾンネームが箔押しされているところ。© Chris Payne
作業に向かう熟練職人の身体の動きは力強く、同時に繊細なものだ。素材を手なずけ、形づくり、変身させ、すばらしいものに仕上げる。舞うような手の動き、身体全体が製作過程に捧げられている。その秘密は根気強さだ。5つの革のパーツから《ケリー》の頑丈なハンドルのアーチを手で象(かたど)るときのように。
裏返して縫われたバッグを、しわひとつ、ひびひとつ付けず、表向きにひっくり返すのは器用さが問われ、危険をはらむ作業だ。返し終わったら縁のパイピングの上をハンマーで軽く叩いて形を整える。ハンドステッチ、サドルステッチと縁のアスティカージュが、エルメスのオブジェたちを丈夫で長持ちするものにする。部分的な機械縫いもあるが、仕上げは必ず手しごとだ。
ウェルビーイングが核となる エルメスは常に従業員の健康および幸福に留意している。職人たちに求められるのは、精密さと集中力。そのためにも、働く人の能力が発揮できるような環境が整備されている必要がある。工房内の環境をより良くするには、仕事場の環境が、人間工学的に優れているかどうかが重要だ。
各自が快適で気持ちの良い環境で仕事が進められるよう、作業台の調整、照明のクオリティ、アトリエの音響環境、温度調整は万全に整えられている。工房における最優先課題は、環境基準の遵守だ。水やエネルギーなどの天然資源の消費は、厳格に最適化されている。
さまざまな色の糸がバッグに合わせてチョイスされる。© Chris Payne
裁断されたバッグ《ケリー》のパーツたち。© Chris Payne
本記事は2021年7月26日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 41