HERMÈS BESPOKE OBJECT

ちょっと特別なエルメス Vol.3
最果ての海辺へと辿り着けるカヌー

October 2022

ここではエルメスのビスポーク部門“オリゾン”から、驚くようなオーダーメイドをお届けする。
第3回目は、実はエルメスが得意とする船関係より、世界一美しいカヌーをご紹介しよう。
All Photo by © Woody van Tassel

カヌーは半透明のボディを持ち、美しい骨組みが露わとなっている。カヌーを背負って運ぶには裏返して片方の肩に乗せるのだが、持ち運びがしやすいよう、梁を重心の位置に置く設計となっている。革巻きされたイエローシダーのパドル2本、パドルを快適に漕げるよう畝のついた櫂用のマット2枚、地図とランプを入れるレザーのポシェット、しぶきよけが付属している。

 1837年創業、もともとビスポーク専門の馬具工房から始まったエルメスは、今でもオーダーメイド専門の工房“オリゾン”を擁している。財布や鞄はもちろん、クルマやプライベートジェットの内装まで、実にさまざまな注文を請け負っている。特に得意とするのが船舶関係である。これには理由があって、部門のデザイン&エンジニアリング・ディレクター、アクセル・ドゥ・ボーフォール氏は、もともと船のデザイナーだったのだ。

「2004年から船の設計を手がける会社をしていました。エルメスと知り合ったのは、彼らがヨットのプロジェクトを始めてからで、私は当初コンサルティングをしていました。それがきっかけでピエール=アレクシィ・デュマと知り合い、協定というか、共通の仲間意識も生まれました」

 この世界一美しいカヌー《スキン・オン・フレーム》にも、彼の美意識が存分に投影されている。カヌーはカナダ産のイエローシダー(アラスカヒノキ)を使って、フランス・ブルターニュに位置するモルビアン湾の工房にて、専門知識を持つ職人との共同作業によって作られている。船体を覆う防水加工が施されたトワルは半透明のため、骨組みが露わとなっている。構造材となっている帯状の板は、釘を使わず、蒸気の熱を利用して湾曲させる伝統的な工法によって成形されているという。

 このカヌーは漕ぐ人を、陸路では辿り着けない最果ての海辺へと連れて行ってくれる。

シートは油脂を染み込ませた紐を編み込んで作られている。ふたつのシートは座る場所であり、カヌーを漕ぐときのクッションにもなる。サイドにはカヌーを運ぶときのためのレザー製の持ち手が備え付けられている。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 47

Contents

<本連載の過去記事は以下より>

ちょっと特別なエルメス Vol.1 夢を釣るためのフライフィッシングセット

ちょっと特別なエルメス Vol.2 愛を運ぶ自転車

ちょっと特別なエルメス Vol.4 自分だけのシュプールを描く

ちょっと特別なエルメス Vol.5 前澤友作氏のプライベートジェット