Wednesday, July 27th, 2016

GOODWOOD FESTIVAL OF SPEED

マーチ卿による、年に一度のモータースポーツ祭典
祖父の意思と遺伝子を受け継ぎ、マーチ卿が創造した究極のモーターショー。
時を超える夢を実現させて、英国の車マニアを虜にする。
issue06

PHOTO: Goodwood Collection

 現在、南イングランドのチチェスター北部の丘陵地で、マーチ卿の私有地である1万2000エーカー(約7キロ四方)の広大な『グッドウッド』には、卿の私邸であるグッドウッドハウスを中心に、競馬場、モーターレース・サーキット、そしてゴルフコースがある。さらにそこには中世英国貴族の社交の中心地となった狩猟場跡があり、オーガニックの牧草地や空港もある。また、初代リッチモンド公爵は、現在の英国でサッカー、ラグビーと並ぶ国技的球技の『クリケット』を広めた功労者であり、グッドウッドハウスの前庭には、世界最古の公式戦が行われたクリケット・ピッチもある。
 いわばグッドウッドとは、中世の狩猟に始まり、競馬、クリケット、ゴルフ、
そしてモーターレースという、英国紳士を魅了したスポーツの聖地的存在なのだ。
 マーチ卿がグッドウッド領主となる前、実父の第10代リッチモンド公爵は当地で競馬に情熱を注いだ。グッドウッド競馬場は7月下旬に5日間31レースを行う『グローリアス・グッドウッド』(栄光のグッドウッド)開催が最も有名で、英国マイル戦の最高峰となるG1競走『サセックス・ステークス』を頂点にして、その美しい丘陵地をそのまま利用した8の字のコースとともに絶大な人気を誇っている。
 そしてその一代前の第9代リッチモンド公爵、マーチ卿の祖父にあたる大貴族が、名だたるモーターレース狂だった。グッドウッドハウス前の私道を完全舗装して、後にマーチ卿が『フェスティバル・オブ・スピード』(以下FoS)で復活させた『クライム・ヒル競走』を開き、1948年にグッドウッド・モーターサーキットを創設した。無論この祖父が、マーチ卿に多大な影響を与えたのは間違いない。いわばFoSは、マーチ卿に隔世遺伝したモータースポーツに対する情熱と愛情の遺伝子が生み出した祭典である。
「それぞれの代で選んだスポーツは異なりますが、特定のスポーツを愛し、そのスポーツをサポートして一般に広めることが我が一族の伝統になっています。問題は、どうやってその時代のニーズに合わせて、支持を得るかということです」
 そう話すマーチ卿だが、1993年6月13日、記念すべき第一回のFoSを開催した日、若きリッチモンド公爵家嫡男は内心、「このイベントに本当に人が集まって来てくれるのか!?」と半信半疑の気持ちでいたという。
 もちろん、企画には自信を持っていた。古今東西の名車やF1をはじめとする歴史的なレーシングカーが一堂に会して、車を愛するファンに直に接してもらう。憧れの車に対面して、本当に触ってもらうのだ。いや、それだけではない。新旧の超一流ドライバーを集結させて、彼らに実際それらの名車を走らせてもらう。単なるコレクターの愛好品となったクラシックカーに命を吹き込むイベントを開きたい。それがマーチ卿の夢だった。
 しかし、初回のFoSに対するスポンサー集めは容易ではなかった。もちろん必死で告知はしたが、それでも実績のないイベントに対する理解はなかなか深まらなかった。「1万人集まれば大成功だと思っていたのです」。今から22年前、マーチ卿はまさに神に観客の来場を祈っていた。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 06
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