Thursday, June 13th, 2019

FROM THE HEART
“ダルクオーレ”のスーツ

秘密はアームホールに
 ダルクオーレは、どうやってそんな服作りを可能にしているのだろうか? 彼や彼の弟子たちに聞けば、きっと同じ答えが返ってくるだろう。秘密はアームホールにあるのだ、と。アームホールなど、洋服のディテールとしては皆同じだと思われるかもしれない。しかし、ダルクオーレのジャケットを着てみれば、その違いはすぐにわかる。とにかくラクなのだ。ダルクオーレのハウススタイルにおいて、アームホールこそ肝心要の部分なのだ。そしてテーラーの哲学を具現化した部分でもある。
「ジャケットにおいては、アームホールこそ、最も重要な部分です」とルイジは言う。
「より正確にいうなら、アームホールの深さです。大きな袖ぐりを用いて、着用時にアームホールが前を向くように袖を取り付けます。これが動きやすさと快適さに繋がるのです」
 伝統的なナポリの技法、スパッラ・カミーチャ(シャツのような肩)やロリーノ(ややコンケーブした肩)だけではなく、ルイジの方法はさらに進んでいる。独自の袖付けのテクニックを使うことで、アームホールを高く、大きくキープすることができるのだ。それによって、比類なき動きやすさが生まれる。
「この方法だと、アームホールを大きく、柔らかく作ることができるのです。そしてパッドを使わず、ロリーノのテクニックなしでも、アームホールが大きく開いた状態を保つことができます」彼はさらに続ける。
「クルマを運転する時や食事をする時、座って仕事をしている時、さらには美しい女性を抱きしめている時も、常に快適ですよ(笑)。まるでジャケットを着ていないかのように錯覚するはずです」

ディテールへのこだわり
 ディテールへのこだわりも有名である。木の葉状のラペルシェイプやサイドアジャスターなど、ダルクオーレの服を着ると、さまざまな発見がある。それぞれのディテールは、考え抜かれた末のものだ。そして何年もの経験から生み出されたものでもある。時には、顧客に教えられることもあるという。
「私の仕事は顧客が言葉にできないことを、形にすることだと思っています」とルイジは言う。
「彼らを満足させることが、私の目標なのです」
 ダルクオーレのスーツは、ジャケットの内側に赤いハートのマークが刺繍されている。
「それが私の癖なんです(笑)。ハート型は私の名前を表しているんです。ダルクオーレとは“心から”という意味を持っているのです。それから赤色を使うのは、それが私の大好きな色だからです。でも赤はメンズ・ファッションにはそんなに使われない色ですよね? だから内側に赤いハートを入れるのです」
 73歳にして、ルイジはいまだ彼の仕事に大きな情熱を持っている。そして多い時では1日14時間も働くことがある。出張も以前より多くこなし、既製服ビジネスのほうも伸びている。ダルクオーレよりも、派手で見てくれのいい服を作るテーラーはあるかもしれない。しかし真のナポリ・メイドの服を着たい人や、着る人を本当にエレガントに見せてくれる服を着たいなら… …サルトリア・ダルクオーレこそ、選ぶべきサルトである。

ダルクオーレ家のファミリー・ショット。ナポリにて。左から、ルイジ、ソフィア、ダミアーノ、クリスティーナ・ダルクオーレ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 23
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