June 2018

CELLULOID STYLE "PHANTOM THREAD"

ファッション業界でも話題!
“ファントム・スレッド”のスタイル

text anna prendergast photography ©2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved

アンダーソン&シェパードらしい、たっぷりとした美しいドレープが特徴のラグランコート。同社独自の裁ち方と作品の時代性を見事に融合させ、幅広のラペル、高めのアームホール、柔らかく自然なショルダーを採用している。

 仕立てられた衣装が物語る、熟練の職人による極上の品質には、ウッドコックはもとより、デイ=ルイス自身もまた深い敬意を抱いている。かつてイタリアで1年以上にわたって靴職人の修業をした経験を持っているし、10代のときには俳優になるために家具職人の道を諦めたこともあった。彼の中には、“稼業”を“匠の技”へと高めるための基準が確立しているのだ。

 精巧に作られた靴を愛してやまない彼は、イギリスの名門シューメーカー、ジョージ クレバリーと長い付き合いがある。同社の共同所有者、ジョージ・グラスゴー・シニア氏は、この映画にウッドコックのアドバイザー役として出演を求められ、実際に登場したほどだ。

「作中の彼は、当社のオックスフォードシューズを鮮やかなテクニックで磨いていますよ(笑)」とグラスゴー氏。「郊外のシーン用に、スエードでも1足お作りしました」。人当たりの柔らかなグラスゴー氏だが、意外にもデイ=ルイスの演じる厳格な役に親近感を覚えたという。

「職人の仕事では、集中力が大いに求められます。手で作業していると、すべては自分の頭の中、つまり思考だけで決まるんです。ですから心を乱すものがあってはならない。物事がうまくいかないと、仕上がりに如実に出てしまうのです」

 デイ=ルイス自身が持つ職人技への敬意と、こだわり尽くされた衣装によって、作品は贅沢な映像美を手に入れた。

美しい衣装で彩られた艶やかな愛の駆け引き1950年代のロンドン。郊外にある「ハウス・オブ・ウッドコック」の主人、レイノルズ・ウッドコックは、見事な腕でオートクチュールを仕立てる天才クチュリエだ。ふと立ち寄ったレストランで若きウエイトレスのアルマと出会い、彼女を魅惑的な美の世界に誘い込むが、完璧で規律的だった彼の日常は思わぬ方向へと進んでいく―。

ファントム・スレッド監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ヴィッキー・クリープス、レスリー・マンヴィルほか
配給:ビターズ・エンド/パルコ

THE RAKE JAPAN EDITION issue 22
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