Monday, April 16th, 2018

A SONG OF ICE AND FIRE
相反する魅力を持つ女優

クールでありながらホット、知的でありながらユーモラスなダイアナ・リグは、
半世紀以上にわたって、どんなに血の気の多い男優とも渡り合ってきた。
text ed cripps

 デイム(男性の爵位ナイト”に相当するもの)の称号を持つダイアナ・リグは大御所でありながら遊び心を忘れない、タフで粋な名女優として舞台や映画の世界に君臨している。両親はインドに住んでいたが、彼女自身は伝統的な英国の教育を受けた。1938年にドンカスターで生まれ、ヨークシャーのボーディングスクールを経て王立演劇学校に入学。その後はロイヤル・シェイクスピア・カンパニーでポール・スコフィールド主演の『リア王』でコーディリアを演じた。
 まもなく、60年代の英国テレビシリーズ『おしゃれ㊙探偵』でエマ・ピール役に起用され、チャーミングな女スパイを好演する。このドラマで披露した演技力、特に器用なコメディエンヌぶりは両刃の剣となった。エマ・ピールが着ていたレザーのキャットスーツ(脱ぐのに45分もかかる“悪夢”のような衣装だったらしい)のように、セクシーな小悪魔のイメージからしばらくは脱却できなかったし、カメラマンよりギャラが安いという不当な扱いにも我慢できなかった。しかし、多才な彼女はすぐに実力を発揮する。1969年の『女王陛下の007』では、ジョージ・レーゼンビーの相手役としてボンド夫人を演じた。この作品は公開当初こそ酷評されたものの、後に再評価されている。
 クールでありながらホットなリグは、『ホスピタル』で共演したジョージ・C・スコットや『ジュリアス・シーザー』のチャールトン・ヘストン、『世界殺人公社』のオリヴァー・リードをはじめ、どんなに血の気の多い男優とも堂々と渡り合ってきた。脚本家のパディ・チャイエフスキーは『ネットワーク』でフェイ・ダナウェイが演じた役にリグを熱望したが叶わなかったため、役名をダイアナに変えたほど惚れ込んでいたという。リグの演技には舞台出身ならではの華がある。『シェークスピア連続殺人!! 血と復讐の舞台』や『夏の夜の夢』、『地中海殺人事件』といった映画はもとより、テレビ版ミニシリーズの『レベッカ』でも家政婦のダンヴァーズ夫人を演じてエミー賞に輝いた。
 彼女は舞台でも本領を発揮している。比較的若い頃から、マクベス夫人やクレオパトラ、ヘッダ・ガーブレルといった大役を数多く演じてきたリグは90年代に再ブレイクし、4つの悲劇―エウリピデス作の『メディア』、ブレヒト作の『肝っ玉おっ母とその子どもたち』、エドワード・オールビー作の『ヴァージニア・ウルフなんか恐くない』、ラシーヌ作の『フェードル』で高い評価を得た。その後も『オール・アバウト・マイ・マザー』や『ピグマリオン』など、人間味あふれる型破りな作品で活躍している。

救いようがないほど能天気

 自らの思いとは裏腹に、彼女は昔から男性の注目を集めてきた。マイケル・パーキンソンはリグをこれまで会ったなかで最も望ましい女性と呼んだし、デーリー・テレグラフ紙によれば、モーターショーでファンが殺到し、トイレに隠れなければならなかったこともあるらしい。ドイツ警察が彼女のファンを警棒で食い止めたという逸話も残っている。それほど、彼女はいつもセクシーだった。
 60年代は既婚の映画監督フィリップ・サヴィルと8年間同棲してタブロイド紙に書き立てられたが、リグは冗談半分に「尊敬されたいとは思っていない」と語った。彼女は2回結婚しており、最初の夫はイスラエルの画家であるメナヘム・グエフェン。再婚したスコットランドの大地主アーチボルト・スターリングとの間にもうけた娘のレイチェルも有名な女優だ。スターリングが女優のジョエリー・リチャードソンと浮気したため、ふたりは離婚したが、今でも友好的な関係を保っている。
 リグは1994年にデイムの称号を得てからも、精力的に活動している。2008年のインタビューでは 、70歳にしてメルセデスを運転し、タバコを1日に20本も吸い、メルローのボトルを寝る前に1本空けると語っていた。「救いようがないほど能天気」だと自称する彼女は、自身の別荘のプールでは裸で泳ぎ、招かれたらどこにでもフライフィッシングに行くほど「釣りバカ」の道楽者だが、列に割り込む人やゴミを散らかす人、マナーの悪い輩には静かな怒りを爆発させるという。
 彼女は最近出演した2作品でも、名声をほしいままにしている。リッキー・ジャーヴェイスが手掛けるテレビドラマ『エキストラ2:スターに近づけ! 』ではダニエル・ラドクリフと共演し、本人役で非常にドライな演技を披露した。そして、『ゲーム・オブ・スローンズ』で演じているレディ・オレナも忘れてはならない。彼女はこの役で6度目のエミー賞にノミネートされた。 いまや79歳になるデイム・ダイアナ・リグは現代的な作品と古典的な名作、ファンタジー作品とリアリティを追求した作品の双方で独特の存在感を発揮し、2008年まではスターリング大学の名誉学長を務め、さまざまなステレオタイプを打破してきた。『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作である『氷と炎の歌』を地で行くような進化を遂げ、衰えを知らない豊かな知性から生まれる辛辣さをユーモアで包み、ホットでありながらクールな魅力を放つ。「年を重ねるほど人生は面白くなる」と彼女は言う。『メディア』のセリフを言い換えれば、「人生は底なしのコップのようなもの。どれだけ注いでもきりがない」というところだろうか。

Diana Rigg
ダイアナ・リグ

1938 年イングランド生まれ。57 年に舞台女優としてキャリアをスタート。65年に映画デビューを果たし、69 年に『女王陛下の007』でボンドガール(ボンドと結婚した唯一の女性)を演じる。近年は、HBOドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』にオレナ・タイレル役で出演。今も現役で活躍し続ける大女優だ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 18

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