トッキーのラグジュアリー日記
Tocky's Luxury Escapes

THE RAKE 日本版 編集部員トッキーこと時田が出合った国内外のホテル、ダイニング、バーについて紹介します。

Special Dinner by MUNI ALAIN DUCASSE and Le Meurice Alain Ducasse

京都で実現、デュカスの名を冠する2店の特別な饗宴

Thursday, April 10th, 2025

京都・嵐山の「MUNI ALAIN DUCASSE」にて開催された、パリの名門「Le Meurice Alain Ducasse」のシェフを迎えたスペシャルディナー。デュカスの名を冠するふたつのレストランのシェフが共演し、旬の食材を駆使した至高の一夜となりました。

 

 

「MUNI ALAIN DUCASSE」のシェフであるアレッサンドロ・ガルディアーニ氏(左)と、フランス・パリを代表する二つ星レストラン「Le Meurice Alain Ducasse」のアモリー・ブウール氏(右)。

 

 

 

 近年、日本の旬の食材を生かしたフレンチが注目されていますが、2月末に京都で開かれた「MUNI ALAIN DUCASSE」と「Le Meurice Alain Ducasse」のシェフ2名によるフォーハンズディナーでは、これまでのフレンチの概念を幾度となく壊されるような、独創的な料理に巡り合いました。

 

 舞台となったのは、京都・嵐山の大堰川沿いに佇むスモールラグジュアリーホテル「MUNI KYOTO by 温故知新」。国内外から多くの観光客が訪れるエリアにありながら、館内では外の喧騒を感じることなく、静けさに包み込まれる上質な時間が流れています。

 

 上質なアート作品で彩られた館内のさまざまな場所からは、嵐山の景色をも楽しむことができ、窓の外に広がる絵葉書のような風景に、ついうっとりしてしまいます。

 

 全21の客室のうち、一階に位置する客室では水の流れる音が心地よく、二階の客室は大きな窓と天井高4.5メートルという開放的な空間です。対面する壁はひとつの面に日本の漆喰を、反対側の壁にはイタリアのスタッコ・アンティコを使用するというこだわりも。インテリアはイタリアの高級ブランドのものを多数採用し、引き算の美学で、インスピレーションを掻き立てられる洗練された、居心地のよい客室です。

 

 

 

 

 静けさを保つために、空調ではなく館内全体に水を巡らせて温度を調節しているという驚くべきこだわりも。その理由は、静かな室内にいて窓を開けた時に聞こえてくる音をより引き立てるためだとか。その華麗なまでのコントラストを、一度ぜひ宿泊して体験していただきたいです。

 

 館内には、オリジナルトリートメントで心と身体を癒してくれるスパ施設のほか、朝食・ランチ・ティータイムで利用できるカジュアルな「MUNI LA TERRASSE」、焼きたてのベーカリーや焼き菓子、アラン・デュカス監修によるチョコレートやソフトクリームなどが人気の「MUNI LA BOUTIQUE」、そして同ホテルのメインダイニングであり、ディナータイムのみオープンしている「MUNI ALAIN DUCASSE」を擁しています。

 

 

窓に面したカウンター席が人気の「MUNI LA TERRASSE」。宿泊客以外も、朝食とランチでの利用が可能。

 

 

MUNI ALAIN DUCASSE」。アラン・デュカスが自ら集めたアンティークグラスがテーブルに彩りを添える。店内には、マルク・シャガールの絵画も。

 

 

 

 今回のイベントは、その「MUNI ALAIN DUCASSE」のシェフであるアレッサンドロ・ガルディアーニ氏と、フランス・パリを代表する二つ星レストラン「Le Meurice Alain Ducasse」のアモリー・ブウール氏によるコラボレーションでした。ふたりはかつて「Le Meurice Alain Ducasse」でともに腕を磨いた旧知の仲であり、ともに切磋琢磨してきた友人。今回のイベントで3年ぶりの再会を果たしたのです。

 

 当日提供されたのは、6皿の料理と6杯のワインペアリング。それぞれが3皿ずつ担当していたコース内容の一部をご紹介していきたいと思います。

 

 まずはふたりが2種ずつ手がけた4種のカナッペからスタート。発酵させた蕪と青唐辛子、イワシとフレッシュチーズ、たっぷりのキャビアと卵黄、そして温かいフォアグラと黒ニンニク、ピスタチオを合わせたものまで、序盤からその組み合わせの妙に圧倒されました。

 

 続いて登場したのは、牡蠣を使ったアミューズ。軽く湯通しした牡蠣に、きゅうりや硬めに茹でたタピオカ、ジントニックのかき氷を合わせ、苦味と酸味、旨味に、さまざまな食感が合わさり、その見事な合体に、味覚に集中すべく思わず目を瞑ってしまいました。ドライアイスとともにいくつもの海藻が敷き詰められたプレゼンテーションは、豊かな磯の香りも相まって、まるで海辺で食事を楽しんでいるかのような臨場感さえ与えてくれました。

 

 

 

 

 コース開始前だというのに、そのクリエイティビティの豊かさと、仕事の繊細さがひしひしと感じられること、この記事を読んでくださっている方にも伝わっていると嬉しいです。

 

 こうしてようやくコースがスタート。ひと皿目に提供されたのは、ホタテ貝とラディッシュ、そしてナスタチウムを使った、アモリー・ブウール氏による一品でした。

 

 二十日大根をはじめ、緑色や紫色のカラフルなラディッシュは酸が効いていて、柚子胡椒とジャスミンのパウダーでマリネされたホタテ(貝柱だけでなく、ヒモも)のやわらかな食感や甘味と、ラディッシュのシャキシャキ感と見事にマッチしていました。すべてが程よく合わさり、あとから追いかけてくるナスタチウムの微かな辛味も相まって、その多層的な味わいに感動したのは言うまでもありません。

 

 

ソースは二十日大根のジュを使ったもの。塩とレモンで味付けをして、くずでとろみをつけた酸味の効いたさっぱりとした一品でした。

 

 

 

 次に登場したのは、長崎産クエを使った、アレッサンドロ・ガルディアーニ氏による魚料理。クエの肉厚な身が非常にジューシーな一品でした。

 

 トレビスやビーツ、生姜を合わせ、下にはビーツのピクルスも。ソースはシャンパーニュ風味で、最初にペアリングしてくださったシャンパーニュ「アントワーヌ ブヴェ ブラン・ド・ノワール・ド・マルイユ シュール アイ」との相性も最高。気づいたら食べ終わってしまっていました。

 

 

ビーツの鮮やかなピンク色が効果的に使用された、五感が刺激される魚の一皿。

 

 

 

 続いては、オマール海老の赤が印象的な料理。こちらはアモリー・ブウール氏による一皿でした。

 

 オマール海老を生のまま専用の機械で乾燥させることで、味をグッと凝縮。日本の天ぷらの衣をイメージしたチップスを添えることで、そのザクザク感とオマール海老のプリっと感が印象的な一品でした。ソースは、オマール海老を煮出して作った、オマールディーヌ。濃厚な味わいに白ワインが進みます。

 

 

 

 

 そのあとには、松で燻製した鮑の料理や、メインのお肉料理が続きました。肉料理は、赤牛のフィレを炭火で焼きあげた一品でした。しっかりとした味わいのソースが続いたため、ロメインレタスをメインに、ミントのオイルを加えたさっぱりとしたソースに仕上げたと語っていたのはアモリー・ブウール氏。炭火で焼いているということもあって、その香ばしい香りとジューシーな味わいは、この原稿を描いているいまでも思い返されるほど印象的でした。

 

 デザートは、わさびのアイスクリームに、ヴァン・ジョーヌという白ワインを使ったカスタードクリームを合わせて。こってりしつつも、わさびのピリッと感と爽快感が絶妙で、満たされていながらも、フレンチを食べた後だとは思えない軽やかさに、ふたりのシェフの類稀なセンスと、技術力の高さを感じました。

 

 

中央のわさびのジェラートと相まって、甘すぎることのないあっさりとしたデザートだった。焼いたり、キャラメリゼしたり、さまざまなスタイルのイチゴを添えて。

 

 

 

 二十日大根と酢や、クエとビーツ、カスタードクリームとわさび……フレンチという枠組みの中で、これまで巡り合うことのなかった料理の数々。デュカスの名を冠したふたつのレストランのシェフは、意外な食材の組み合わせから、新たな美味を創出し続けていました。今回のような稀有な体験を、これからも追い求めていきたいと改めて思わされた素晴らしい会でした。

 

 来る2025年5月30日(金)には、同じく京都にあり、ザ・リッツ・カールトン京都内のプライベートダイニング「Chef’s Table by Katsuhito Inoue」とのコラボレーションイベントも開催されます。京都近郊の食材を知り尽くし、旬の食材を活かした料理を得意とする井上シェフと、アレッサンドロ・ガルディアーニ氏がどんな料理を作り出すのか、とても気になりますよね。当日は、MUNI ALAIN DUCASSEのソムリエによる6杯のワインペアリングも振る舞われるとのことです。食通でなくとも、その類稀な一夜に感動を覚えるはずです。この貴重な機会を、どうかお見逃しなく。

 

 

MUNI ALAIN DUCASSE

京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3番

TEL. 075-863-7771

https://muni.by-onko-chishin.com/cuisine/cuisine-muni-alain-ducasse/

 

 

著者 トッキー(時田幸奈)/  Yukina Tokida

THE RAKE日本版のシニアエディター兼ウェブディレクター。国内外のラグジュアリーホテル、ダイニング、バーを中心に取材し、誌面およびオンラインで記事の執筆・編集を手がける。「トッキー」は、編集長からのニックネーム。