老舗カフェ「ビチェリン」とライフセーバー
南里清久さん
Monday, September 10th, 2018
南里清久さん
ビチェリン・アジアパシフィックアンドミドルイースト 代表取締役社長
text kentaro matsuo photography tatsuya ozawa
ビチェリン社長、南里清久さんのご登場です。ビチェリンというのは、イタリア、トリノにあるカフェで、その創業は今から255年前、1763年まで遡ります。哲学者ニーチェや『三銃士』で知られる作家デュマに愛され、戯曲家プッチーニのオペラにも出てくるというから驚きです。店名を冠したチョコレート・ドリンク“ビチェリン”は、文豪ヘミングウェイによって“世界で残すべき100のもの”に選ばれたそう。現存するカフェではLocali storici d’Italiaのメンバーとしてイタリア最古。南里さんは、そんな名門の日本(とアジア)の代表をされています。
さて、南里さんと私は20年来の友人ですが、初めて会ったのは、彼の自宅に、インテリアの取材に行ったときでした。たいそうな豪邸に住まわれており、最初はビビリましたが、バスルームを覗いたら、世界各国のホテルから持ち帰ってきた小さな石鹸やシャンプーが、ちょこまかと並べられていて、「あ、この人、いい人かもしれない」と思ったことがきっかけでした(笑)。
「幼い頃から“旅”が大好きで、昔テレビでやっていた“兼高かおる世界の旅”を欠かさず観ているような子供でした。高校生くらいになると、バイトをしてお金を貯めては、海外旅行へ出かけるようになりました。海外では、空港やホテル、レストランなど、ラグジュアリーな場所を見て回るのが好きでした。もちろん自分では利用できないので、外から眺めるだけです。ニューヨークでは、コンコルドから降りてくる人たちの、エレガントな装いに憧れました。パリのリッツホテルは、まるで城のようだと思いました。日本と違って海外では、それぞれの空間に、似合った人がいるのです。そういう人たちを観察するのが楽しかったのです」
そんな経験が、ビチェリンの店作り、そしてファッションにも生かされています。
ネイビーのジャケットは、トム フォード。
「トム フォードは、007が好きなので、よく買っています。その前はブリオーニが好きでした(トム フォードとブリオーニは、ボンドが劇中で着用)。時流に乗っかるタイプなので(笑)」
グレイパンツは、リーノさんで有名な、ミラノのアル バザールでまとめ買いしたもの。
タイとチーフは、ビジャン。
「ビジャンは、歴代のアメリカ大統領やマイケル・ジョーダンなども訪れるビバリーヒルズの超高級ブティックです。アポイント制で、その接客術は驚くべきもの。入店すると、まずはシャンパンがサーブされるのです」
シャツは、ターンブル&アッサー。
「生意気だと思われるかも知れませんが、ターンブル&アッサーは、中学生の頃から着ています。母親がブティックをやっていた渋谷西武に、ショップがあったのです。今ではロンドンで買っています。シャツはターンブルか、ユニクロか、どちらかしか着ません。ええ、ユニクロのシャツも、とてもよく出来ていますよ」
なるほど、南里さんは、単にブランドネームに踊らされるタイプではないようです。
時計はGショック。これも意外。
「ハリーウィンストンやブレゲなど、時計はいくつか持っていますが、最近はこればかり」
ネイビーのシューズは、クリスチャン ルブタン。
「ルブタンにしては地味すぎるデザインなので、売れ残っていたのです(笑)」
今でも年に6〜7回は、海外に出かけます。
「ネイビーのジャケットにグレイのパンツが基本です。出張が多いので、毎日同じでも、フケツに見えない格好がいいのです。同じような紺ジャケや白シャツを、何枚も持っています」
ビチェリンの本拠地イタリア、トリノのほか、中東カタールにもよく行かれるとか。
「たまたまカフェで話しかけられたカタール人に、日本のことをいろいろ教えてあげたら、なんと彼はカタールの王子だったのです。それが縁で首都ドーハに、カタール初の日本食レストランを出店しました。以来、日本とカタールの橋渡し役をやっています」
現在“在カタール日本国大使顧問”の肩書きもお持ちです。
肩書きといえば、彼はもうひとつ、驚くべきプロフィールを持っています。それは“ライフセーバー”というもの。ビーチをワッチしているアレです。
「千葉の勝浦で毎夏、1週間から10日間くらい、ボランティアでライフセーバーをやっています。日焼けしているのはそのせいですね(笑)。以前たまたま、心肺停止に陥っている若者を助けたことがあって、それ以来“救命”ということを真剣に考えているのです。ライフセーバーって、日の目を見ない大変な仕事なのですよ。海にいるのは1年のうち1ヶ月そこそこで、残り11ヶ月は、ずっと辛い練習に耐えている。人命救助のノウハウも、一般にはあまり知られていない。そこで、まったく別の視点から、ライフセービングやレスキュー(人命救助)というものをアピールしたいと思いレスキューパートナー財団を設立しました。例えば、有名なファッション・ブランドとコラボして、ライフセーバーのTシャツを作って、みんなに“カッコいいな”と思ってもらうとか・・。そこから興味を持ってもらえれば、それはそれでいいのです」
確かに、世の中に、ライフセービングほど、重要な仕事はないかもしれませんね。卓越したファッショニスタ、そしてヒューマニストでもある南里さんの美学を、ぜひビチェリンにてご体験ください!