From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

驚くべきマルチぶり 次はゴルフブランド
九島辰也さん

Thursday, November 10th, 2022

モータージャーナリスト

 

 

text kentato matsuo

phtography tatsuya ozawa

thanks to Poltrona Frau Aoyama

 

 

 

 

 クルマ業界のみならず、この世界で知らぬ人はいない、九島辰也(クシマタツヤ)さんのご登場です。アリタリア航空機内誌「PASSIONE(パッショーネ)」編集長、ゴルファー向けフリーペーパーGo gol(ゴーゴル)編集長、メンズ誌MADURO(マデュロ)編集長など、数々の要職を歴任されてきました。本業はモータージャーナリストですが、その他にも数多くの顔をお持ちです。そのマルチぶり、多忙ぶりは凄まじいばかり。

 

 自動車評論家としては……

 

「先週は久しぶりに海外へ行ってきた。イタリアで新型フェラーリの試乗。ドライブして、美しい景色を見て、人と触れ合うのはやっぱり楽しい。ベントレー、アストンマーティン、そしてフェラーリといったハイブランドだと、試乗だけではなく、ブランドの世界観を見せようとするのがいいね。だから例えば『コモ湖ってどこ?』、『リーヴァって何?』というふうに話が広がって、とても勉強になる」

 

「コロナ前は、多い時は月に3回海外へ飛ぶこともあった。成田から羽田へ直行して、そのまままた離陸とか。飛行機の中で、ふと、『僕はどこへ向かっているんだ?』と首をひねったこともあったっけ(笑)」

 

 日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員も務められており……

 

「12月の本選に向けて、ノミネートされたクルマには全部乗らなければならない。ノミネート車は合計30台くらい。もう9割くらいは試したからあと少しだね」

 

 クルマばかりか、ボートの選考も任されており……

 

「日本ボート・オブ・ザ・イヤーの選考委員をやっている。海外のカーデザイナーにインタビューしているとリーヴァ、フェレッティ、プリンセスなど、度々ボートの話が出てくる。それで興味を持ったのがきっかけかな。知らないとインタビューも深掘りできない」

 

 若い頃からサーフィンをおやりになり、現在はサーフィンメディア『NALU(ナルー)』の編集長もお務めで……

 

「いま三菱自動車と組んでNALU号を作っている。アウトランダーPHEVのタイヤやホイールを変えて、サーファー仕様のクルマを組んでいるんだ。ステッカーチューンがキモだね」

 

 さらにインテリア関係のお仕事も進んでいて……

 

「イタリア、ヴェネト州の“アトモスフェーラ”というインテリア・ブランドを日本に紹介している。ここが扱っているのはアウトドア専門の家具。ヨーロッパの人って、リゾートホテルやレストラン、ポロ競技場にしても、“外(ソト)”の使い方が上手。その点、日本はまだまだなので、本場の“外(ソト)家具”を広めたいと思っている。表にはヨットの帆に使われる生地が張られていて、防水・防カビ・耐光に優れているんだ」

 

 さらにさらには、葉巻関係にも手を広げられており……

 

「日本葉巻協会のメンバーもしている。日本では葉巻って、誤解されていることが多い気がして。本当はオーガニックで、ゆったりとした時間を楽しむもの。そのことを伝えたい。夕暮れ時に火をつけて、あたりが真っ暗になるまで燻らすんだ。僕が好きなのは、JFKも愛したキューバのアップマンという銘柄。いつもAMAN東京のバーで吸っているよ」

 

 とまぁ、ざっと挙げただけでも、これだけの仕事をかけもちされています。

 

「こんなにいろいろなことをやっている人は多くないかな?(笑) でも、コロナだった2年間を振り返ったとき、『何もしていなかった』と悔やむのは嫌じゃない? 2021年は大型バイクの免許も取得したので、これからはバイク関係も勉強していきたいね。そして2022年は……」

 

 

 

 

 ようやく話は本題に入ります。2022年7月に、九島さんはご自分のゴルフファッション・ブランドを立ち上げられたのです。それが“ザ・デュークス・ゴルフ(The Duke’s Golf)”です。

 

「ヨーロッパへ行くと、向こうの人はリゾートで着ているものが、日本とはぜんぜん違う。上質なテロっとしたリネン素材のポロやスキッパーから、鍛えた肌がちらっと覗いているような……。『日本には、そういう服がないなぁ』と前々から思っていたんだ」

 

 九島さんは海外経験が豊富で、かつて雑誌LEONの副編集長もされていたので、ファッションについての造詣も並々ならぬものがあります。

 

「そんな時、仲宗根(なかそね)正人さんというアパレル業界の重鎮に出会った。彼はバンド・オブ・アウトサイダーズ、ユニクロ、チャンピオンからシャネルまでの企画・生産を手掛けたことのあるプロ中のプロ。そこで僕が『例えば、こんなシャツは作れないの?』とイラストを描いて渡したら、次に会った時にサンプルを作ってきてくれたんだ」

 

 仲宗根さんとはゴルフ仲間で、ともにフェアウエイを歩くことも多いそう。その中で、ゴルフ場のみならず、その行き帰りや、リゾートでも着られるというザ・デュークス・ゴルフのコンセプトが固まっていったとか。

 

「時としていい大人が西海岸風のアメリカン・カジュアルでは、だらしなく見えたりする。ブリティッシュは正統でいいけれど、堅苦しすぎる。そこで英国的なものにイタリア的なフィルターをかけて、着やすく仕上げるのが一番だと思ったんだ。仲宗根さんも『いやぁ、そういう感じいいですね!』と言ってくれて、ザ・デュークス・ゴルフが誕生したというわけ」

 

 

 

 

 本日のコーディネイトは、出来たてホヤホヤのザ・デュークス・ゴルフのサンプルより。

 

 別珍のジャケットは、ザ・デュークス・ゴルフの秋冬サンプル。

 

「コレクションにブレザーは必須だと思っていた。でも、普通のブレザーだと『もう、持っているよ』となって、誰も買わないだろう? そこで素材を別珍に変えたら、すごく新鮮で上品な感じになった」

 

 ポケットに刺してあるチーフは、実はジャケットの付属品。

 

「裏地がポケットから引っ張り出せるようになっている。これは僕自身がオーダーするとき、よくやっていた遊び。昼間はしまっておいて、夕方になったらすっと摘み出すと、雰囲気が変わっていいんだよ」

 

 ニット素材のシャツとトラウザーズも、ザ・デュークス・ゴルフ。よく見ると、シャツのフロントプラケットの下のほうにフラップがついていたりと、非常に凝ったデザインです。

 

「仲宗根さんは洋服に対して、ものすごく凝り性。なのでどんどんマニアックな方向へ進んでしまう。僕はそれを少しばかり引き戻す役かな(笑)」

 

 ベルトはヴァルカナイズ・ロンドンで手に入れたもの。

 

「ヴァルカナイズ・ロンドンにはよく行っている。ここで売っているモルトンブラウンのボディソープの香りが好きで、ハンドソープとしても使っていたりして。12月には、ザ・デュークス・ゴルフと英国のプレミアム人工芝ブランドEasigrass(イージーグラス)とコラボして、青山、GINZA6、名古屋のヴァルカナイズ・ロンドンでポップアップ・ショップをやる予定」

 

 プレミアム人工芝ってところが、ベリー・ブリティッシュですね。

 

 

 

 

 

 シューズは、ヒューゴ・ボス。

 

「コロナ禍以来、靴といえばスリッポンと白いスニーカーばかりになってしまった。でもザ・デュークス・ゴルフとしては、ゴルフ場の往復には、シューレース付きの靴を履いて行ってほしいかな」

 

 身長180cm超のイケメンが着れば、なんでもよく見えるはずですが、これは出色のコーディネイトですね。

 

 

 

 

 ところで……、九島さんと私は、その昔、同じ編集部に所属していたことがあります(残念ながら、同時期ではありません)。彼は私にとって「同じ釜の飯を食った」先輩だといえます。ちょい不良(ワル)オヤジの生みの親である岸田一郎さんが立ち上げたCar Ex(カーイーエックス)というクルマ雑誌です。

 

「Car Exは、岸田さんの個性が出た面白い本だった。一言でいうと、『国産の新車なんか買うな、10年落ちのベンツかポルシェを買え、それで女の子をドライブに誘え、あとは知らんよ』っていう内容(笑)。僕の編集のキャリアはあの本がスタートだったんだ」

 

 Car Exは、当時「クルマ界のJJ」と言われていました。九島さんは副編集長まで務められました。

 

 その前は、電通サドラー・アンド・ヘネシーという代理店で、医療機関向け医薬品のプロモーションに携わっていたとか。

 

「海外の医学学会にメディカルライターを連れて行って、記事を書いてもらうことが多かった。外国へはその頃から、頻繁に行くようになったかな。胃薬のプロモーションでは、胃に優しいCDとか、胃に優しい料理本とかを企画した。あの頃は、ずいぶんと経費が使えたなぁ(笑)」

 

 さらにその前は、なんとホテルマンだったそう。

 

「大学を卒業して銀座東武ホテルラマダ・ルネッサンスへ入社し、働いていた。最初の1年間は、レストランでギャルソンをやらされたよ。おかげでフランス語のメニューが読めるようになったりして(笑)」

 

 それ以前のお話も拝聴し、カメラマン小澤と抱腹絶倒したのですが、ここでは書けないことばかりなので割愛せざるを得ません。一言でいうと、さまざまな経験をなさっている、ということです。

 

「人生、いろいろなことをやったほうがいいんじゃないか? 一見関係ないようでも、その時の経験が、いま役に立っているということがたくさんある。何でもやらないより、やったほうがいい」

 

 そう仰る九島さんは、インターナショナルな感性を持ち、いつもチャレンジ精神に溢れる、素晴らしい大先輩です!

 

 

 


オリジナルのコットン100%のトートバッグ。サイドのスナップボタンで大きさを変えることができる。サイズは写真のSの他Lもあり、カラーはネイビーも展開されている。

 

 


シェッドランドウール100%を使用したローゲージニット、重くならないように編地を工夫している、衿、袖口、裾は2段編みになり伸縮を強化している。この手のものにしては珍しく、ヴィヴィッドなカラーが3色揃う。

 

 


左から:モックネック・ニットは超長綿にカシミア30%をブレンドした糸を使用した保温性と風合いの良い素材を使用。脇下は動作性を重視したカットワークで1枚でも重ね着でも重宝する/チェック柄に中綿を入れ防寒性に優れたキルティングパンツ/キャップは‘47(フォーティーセブン)をベースにしたダブルネーム。