From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

銀座で培った販売の極意とは?
林博文さん

Tuesday, April 10th, 2018

林博文さん

某英国ラグジュアリーブランド 銀座本店ジェネラルマネージャー

text kentaro matsuo  photography natsuko okada

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銀座界隈のブランド好きの間では、知らぬ者はいないといわれる有名ショップマネージャー、林博文さんのご登場です。業界では、販売の天才と言われており、若い頃から彼が店長になると、あっという間に売上げが伸びることで知られていました。ご出身は、大分県佐伯市というところ。

 

「もともとは九州の地元企業で働いていました。コンビナートを擁する大会社で、作業着にヘルメットを被っていたこともありました(笑)。でも、どうしてもファッションでメシを食うという夢を捨てられなくて・・。上京してファッションの学校へ通い始めたのです。そんな時、中野の丸井で販売補助のバイトをしました。そうしたら、なぜかメチャクチャ売れてしまって・・・販売って、面白いなぁと思いました」

 

DC全盛の時代、入社したブランドでは、すぐに売上げ上位となり、3年目にして店長に抜擢されました。そうしたら、その店が売上げ全国1位となりました。その後に携わったブランドでも、成績はずっと右肩上がり。

 

「どうしたら、そんなに売れるのですか? コツは何ですか?」との質問には、腕を組んでしばらく考えた後、

「単品を押し付けるということはしません。必ずトータルなスタイルをご提案します」

「ニーズと提案は違います。例えばあるアイテムを買いに来た人に、まったく別の、意外性のある商品をおすすめしたりします」

「お客様がまわりから、どう評価されるかということを考えています。その人が自分でも気付いていない自分を、見せてあげたいと思うのです」

 などなど。

 林さんと私のご縁は古く、もう知り合ってから、15年以上になります。基本的にはラグジュアリーブランドのプレタポルテをご担当なさっていますが、林さんの得意技は、それぞれの顧客に合わせた、きめ細やかなお直し&オーダーメイドで、私も昔はずいぶんと林さんに洋服を作ってもらったものです。そしてそのうちの何着かは、今でも毎週のように愛用しています。

作ってもらった当時は、「ちょっと細すぎるのではないかな」と思ったりもしましたが、時が経つにつれそれが、「ちょっと太すぎるのではないかな」に変わり、いままた「ちょうどいい」と思えています。そのへんが林マジックで、多くの顧客を虜にするワザなのかもしれません。

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スリーピースは、ドーメルのトニックで仕立てたもの。一見するとブリティッシュ・スタイルですが、林流の遊び心が随所に散りばめられています。

 

「ターンナップ・カフで、シングルのピークトラペルですが、ウエストコートはダブル。パンツのポケットは、珍しいクロスポケットとしました。パンツの股上を深く、ウエストコートを短くして、脚が長く見えるよう工夫してあります。センターベントで後裾にゆとりを持たせ、後ろ姿がエレガントになるよう仕立てました」

なるほど、なかなかここまでこだわりを持てる人はいません。

 

自分で結んだボウタイと、ラウンドカラーでやはりターンアップ・カフのシャツもポイントです。

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時計は、ジャガー・ルクルトのレベルソ・デュオ。

リングはアンティークに自らのイニシャル“H”を彫っています。

 

シューズは英国製のサイドゴア・ブーツ。流麗なラインがキレイです。

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「販売の極意とは何ですか?」との問いには、これまたしばらく考えた後、

 

「例えば、もし超有名ブランドのデザイナー本人が店に立っていたとして、彼が『君にはこれが似合う』と言ったら、お客様は100%買いますよね。私もそんな存在になりたいのです。『お前がすすめるなら、買うよ』と言われるような、存在になることが極意でしょうか?」

 

なるほど、これは深く、また難しい道でありますね。

「販売一筋で30年間やってきて思うのは、販売には正解がない、ということです。それぞれの販売員がそれぞれのやり方を持っており、どれが正しいということはありません。しかし、ひとつ言えることは・・販売とナンパは違うということです(笑)。よく口が立つから、オンナを引っ掛けるのもウマいでしょうと言われるのですが、お客様に声をかけることは出来ても、女性に声をかけることなんて、とても出来ません(笑)」

 

林さんは根っから、ファッションというものが大好きな人です。そこには、「売りつけてやろう」という邪念がありません。そういった真摯な心が、買う人の心に響くのではと思いました。