自由な視点とルール、お洒落にはどちらも必要
鏡陽介さん
Saturday, February 25th, 2017
鏡陽介さん
三越伊勢丹 カスタムメイド バイヤー
text kentaro matsuo photography tatsuya ozawa
昨今「洋服が売れない」という声を、そこかしこで聞きます。しかしTHE RAKEが扱っているような、超高級テーラードの世界は真逆です。私の周りにいるテーラーたちは、「注文が多すぎて、もう作るのが追いつきません!」と皆嬉しい悲鳴をあげています。
そこで今回のご登場は、三越伊勢丹のオーダーメイド部門にてバイヤーをなさっている鏡陽介さんです。新宿の伊勢丹メンズ館は、ルビナッチ、ヘンリープール、チフォネリなどの大御所テーラーや、イタリアの“知る人ぞ知る”サルトとコラボを連発し、いま実に元気がいいのです。また専属テーラーの山口信人氏によるラ スカーラも好評です。それらの仕掛け人が、鏡さんなのです。
スーツは、ラ スカーラ。ヴィンテージ風の生地は、伊勢丹オリジナルです。
「ウール×リネンを原料の段階で混ぜて、4プライのS強撚をかけたモノです。そもそも・・」さすがに生地の話になると、弁舌がぜん熱を帯び、止まりません。
タイは、ドレイクスとリッドテーラーのダブルネーム。
シャツはイセタンメンズのオーダーでアメリカラインと呼ばれるもの。
「アメリカ風のレギュラーカラー・シャツです。往年のラルフ ローレンとかブルックス ブラザーズなどが作っていたようなシャツをイメージしました。ジャンニ・アニエッリが着ていたような・・」
チーフはブルックス ブラザーズ。
サウペンダーはアルバート・サーストン。
「ベルトはしません。伸び縮みする素材だと、サスペンダーでも肩が凝りませんよ」
メガネはオリバーピープルズ。
時計は、ブライトリングのスーパーオーシャン。奥様から結納返しとして貰ったものだそうです。
「以前違う時計をしていたら『無くしたの!?』と怒られました。一生これ以外つけられません・・」
クロムハーツのリングも、結婚前に奥様からプレゼントされたもの。
鏡さんは結婚してもうすぐ12年になるそうですから、愛妻家の鑑(鏡?)ですね。
ウォレットチェーンはアンドレア ダミコ。先端にはご自宅のカギがつけられています。
「酔っ払って、しょっちゅうカギをなくしていたのです。だから、こうすれば落とさないと思って・・まるで中学生ですね(笑)」
シューズはオールデン。ミラノのERAL55で買ったユーズド品です。
「いわゆるB品で、ライニングの処理が悪くて、足に刺さるのです。履くたびに出血していました(笑)。修理して、ようやく直りましたが」
コーディネイトには、日本、イタリア、アメリカ、英国が、すべてバランスよく取り入れられています。
「あまりひとつのテイストに固執しないで、それぞれのモノのよさを紹介していきたいですね。例えば、ナポリのハンドメイドのスーツはとてもいいけれど、アメリカ製のマシンメイドだって、また違った魅力がある。私はどちらも素敵だと思います」
そんな視点は、長かった海外生活で培われたもののようです。
「2〜6歳までロンドン、9〜12歳までシカゴで暮らしました。モデルのデヴィッドの故郷の近くです(笑)。現地校だったので、クラスにはアフリカ系、アジア系、ユダヤ系など、いろいろなバックグラウンドの生徒がいました。例えばインド人の友人は、算数がよくできるんです。アジア系の友人は絵を描くのがうまい人が多かった。それぞれの科目によってクラスが変わり、皆それぞれのよさを認め合っていました。その経験から、Aはよくて、Bはダメだと、決めつけず、物事をフランクに考えられるようになりました」
ただし、アメリカでは一つだけNGがあったそうです。
「のび太くんのような、短めの半ズボンは、現地では絶対に穿かないのです。アメリカ人はバミューダなんですね。『男のくせにホットパンツを穿いている』と笑われました。ですから、インターナショナルなルールを知ることも大切です」
なるほど、自由な視点とルール、男のお洒落にはどちらも不可欠ということのようです。