From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

出張前にトップリフトを取り替える
木下ジェリーさん

Saturday, June 25th, 2016

木下ジェリーさん

Andiamo代表取締役社長

text kentaro matsuo photography natsuko okada

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 新進輸入代理店Andiamoの社長、木下ジェリーさんのご登場です。ジェリーさんは、長らくユナイテッドアローズの店頭に立たれていましたので、ご存知の方も多いと思います。188センチの長身でイケメン、そしてとびきりのファッション・センスをお持ちですから、嫌でも目立つのです。

UA時代の経歴は華々しく、弱冠24歳で福岡店の店長に抜擢されてから、常に売上げトップをキープし“伝説の販売員”と讃えられていました。

UAの主要店店長を歴任する傍ら、バイヤーとしても活躍されていました。そのジェリーさんが、この春、満を持してスタートさせたのが、Andiamoです。

 

「ファッション業界では、四十代までは“パシリ”と言われます。一見偉そうに見える人も、さらに偉い人に、いいようにコキ使われているんですよ。そして私は、今年ようやく50歳になりました。そこでこれを機に、本当に自分の着たいものを追いかけてみようと思ったのです」

 

そして出会ったのが、今日お召しになっているスーツを作ったナポリのテーラー、ルカ・グラッシアでした。

「ずっと仲良くしていたフィレンツェのタイ・ユア・タイ(現在フラージ)の、シモーネ・リーギさんに『お前には、特別に教えてやるよ』と言われて紹介されたのが、ルカでした。工場へ行って、すぐに『これは凄い』と思いました。とにかく縫製が丁寧なのです。ファミリー企業で、団結力が強く、昔ながらの方法を頑に守っている。超一流ブランドの最高級ラインのOEMも、数多く手がけていました。しかも、他に比べて数割安い。これは絶対に日本に紹介したいと思いました」

そして、輸入代理店を設立なさったというわけです。

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  私の目から見ても、ルカ・グラッシアの服は、とても魅力的に思えました。ナポリの昔ながらのサルトリアっぽさ満載で、それが却って、実に今っぽい雰囲気を醸し出しています。撮影時にはちょうど展示会をなさっていたのですが、久々に、「いい服だな」と思えるコレクションでした。ダブルのジャケット、それから特にパンツがいいですね。サイドアジャスターが付いたベルトレスで、ボタンフロント、たっぷりとしたプリーツが取られており、エレガントそのものです。ジェリーさんは

「日本にクラシコ・イタリアが紹介された当時、80年代後半から90年代前半の雰囲気がいいですね。あの頃のキチンとした服が、また戻って来ると思います」と仰っていましたが、その意見には、私も100%賛成です。

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シャツは、フライに別注したもの。カラーはロングポイントで、カフスにはボタンが二つ付いています。

タイは、前出タイ・ユア・タイで、10年ほど前に買ったもの。

チーフはピオンボが、シモノゴダールへ別注した一枚です。これも買ったのは10年前。

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シューズはジョン ロブのロペスで、なんと買った直後にヒールを積み直しているそうです。

「私は靴を買うと、いつもヒールを取り替え、ちょっとだけ高く仕上げます。その方が後ろ姿が美しく見えるのです。また年6回ほど出かける海外出張の前には必ず職人にお願いして、靴の化粧直しをしてもらいます。トップリフトを取り替えて、コバを整えるのです。確かにお金はかかりますが、これはもうエチケットだと思っていますから」

毎回の出張前に、いちいちトップリフトを取り替えるなどという人には、初めてお会いしました。ちなみにジェリーさんの靴所有数は凄まじく、「レギュラーだけで300足ほど」だとか。さらに「スーツは50着、シャツは400枚、ネクタイは1000本以上」持っているそうですから、もはや“ファッションの鬼”ですね。

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「お陰さまでルカ・グラッシアをはじめ、当社の服は各ショップのバイヤーさんたちに大好評を頂いています。私が心底惚れて引っ張って来たものを、よいと言ってもらえると本当に嬉しいですね。実はいま、毎日が楽しくて楽しくて、夜も眠れないほどなんです」

 “鬼”はいま、ご自分の仕事を心底楽しまれており、実にゴキゲンのご様子です。