WOVEN TRACK RECORD

織物師の矜持

April 2021

ビエラに位置する壮大なVBCの工場の全景。

 

 

 

会話できる唯一の織機工場

 

「インスピレーションには旅が欠かせません。ここは山に囲まれた田舎です。だからデザイナーには、例えばロンドンのジャーミン・ストリートやサヴィル・ロウのようなところに行かせています。東京やソウルもそうです。いいホテルやレストランに行って、人々が何をして、どんなものを着ているのかを見に行く必要があるのです。世界はダイナミックで、常に変化しています。今、私がインスピレーションを得るために1カ所だけを旅するとしたら、それは日本でしょう。彼らは何をするにしても情熱的で、流行やメンズウェアの最新トレンドを非常に敏感に受け止めます。彼らは私たちに多くのインスピレーションを与えてくれます」

 

「デザイナーたちのアイデアはなるべく取り入れたいと思っています。イタリアのデザインチームは最高です。彼らにインスピレーションを与え、創造性に新たな燃料を与えたいと思っています。バイヤーにとって魅力的で“セクシー”であり続けるためには、私たちの製品を常に刷新し、若返らせなければなりません」

 

「私たちは機械メーカーと協力し、独自のマシンを製作しています。今では毎分1,000ピックで織れる織機がありますが、そこから生地が紡ぎ出されるのを見るのは信じられないことです。20年前には考えられませんでした。そして、そのクオリティは、まったく同じなのです。反復作業や重いものを持ち上げる作業にも最新のマシンを取り入れています。これらの作業は、機械がやっていても品質には全く影響しません。織機はすべてカバーされており、遮音されているため騒音がなく、人と人が普通に会話できる唯一の織機工場でもあります。これは直接生地の品質を向上させるものではありませんが、環境を向上させます。想像してみてください。マシンガンのような騒音が1日8時間、週5日、40年間も続いていたとしたら……。私たちは従業員の健康を第一に考えています。人を大切にし、彼らを特別な存在だと感じさせれば、それが製品に必ず反映されるはずです」

 

「人の目と手は、機械では代えられないものです。40人の職人が一日中生地をチェックし、細かいシワを察知し、手で補修しています。人間の手は生地に触れて、それが正しいかどうか、重さが一定かどうか、乾きすぎていないか、毛羽立ちすぎていないかどうかを判断できます。これは決してパソコンや機械には代えられません。これは人の感性です」

 

 

入念にチェックされるプリンス・オブ・ウェールズ・チェックの生地。

 

 

 

羊毛は最もエレガントな繊維

 

「羊毛がサステナブルであること、動物が大切にされていることを言っておかなければなりません。オーストラリアの牧場では、羊たちは狭い場所に閉じ込められることもなく、自由に歩き回っています。ウールは300年前から流行らなくなるといわれてきましたが、今でもウールは、最も吸湿性が高く、最も多用途で、最も耐久性があり、最もエレガントな繊維です。また、最も環境に優しい繊維でもあります。 だからこそ、熱烈なウール擁護者であるチャールズ皇太子は、どちらが自然に再吸収されるかを証明するために、異なる素材を埋めてテストをしました。クラレンスハウスの花壇に、ひとつは毛織物、もうひとつは合成繊維を埋めたのです」

 

「私は着古した服というものが大好きです。私は擦り切れたシャツをたくさん持っていますが、来年90歳になるサルトを使っていて、穴の空いたところにコインサイズのワッペンを貼ってもらっています。私にとってワッペンはメダルのようなものです。またチャールズ皇太子の話をしますが、彼は穴の空いたスーツを、アンダーソン&シェパードに持って行き、パッチを当ててもらっています。卵を買うようにスーツを買うべきではありません。私にとってのクオリティとは、修理できるもの、一生使えるもののことです。それは子供や孫に遺すべきものなのです」

 

 

ヴィターレ・バルベリス・カノニコのラベルが貼り付けられた生地。高いクオリティとクラフツマンシップの証である。

 

 

 

THE RAKE JAPAN EDITION issue39

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