The new EQS SUV

専用プラットフォームを得た宇宙船のようなクルマ「メルセデス・ベンツ EQS SUV」

June 2023

text & photography kentaro matsuo

 

 

 

 

 電気自動車(BEV)には2種類ある。ひとつはガソリン車のプラットフォームを流用して、そこからエンジンやミッション、ガソリンタンクなどを取り去り、モーターやバッテリーを載せたもの。そしてもうひとつは、BEV専用のプラットフォームを使っているものだ。どちらがいいかといえば、これは後者のほうが圧倒的に有利なのだ。新しく発売されたメルセデス・ベンツEQS SUVを見れば、その理由がよくわかる。

 

 

 

 

 まずBEV専用車は、空間を自由に使うことができる。

 

 例えば、ガソリンFR車の場合、フロントのエンジンパワーを後輪に伝えるために車体中央にプロペラシャフトを通すフロアトンネルが必要となる。だから座席の間に凸部ができてしまう。電動化しても、そのでっぱりはそのまま残る。しかし、BEV専用ならば前後にモーターがついているから、プラットフォームにフロアトンネルが必要ない。よって車内をよりフラットにできるのだ。

 

 

 

 

 EQS SUVは、そのメリットを最大限に生かしている。3列7人乗りのレイアウトを採用しているが、2列目の真ん中や3列目のシートでも快適に座ることができる。レッグスペースもたっぷりとしている(運転席から後席に置いたカバンを取ろうとしたら、手が届かなくて苦労したほどだ)。2列目、3列目は片側ずつ倒すことができるので、多彩なシートアレンジが可能だ。

 

 

 

 

 それから、エクステリアの自由度が増す。クルマで一番巨大な積載物=エンジンがいらないし、ラジエーターグリルや底面のエグゾースト関係も必要ないから、クルマまわりの造型が自由自在である。EQS SUVは、つるりとした卵のような顔をしていて、前方投影面積が大きい(横幅2m、高さ1.7m)にもかかわらず、Cd値は0.26をマークしている。これは大型エンジンSUVではあり得ない数字だ。

 

 

 

 

 普段のメンテナンスでボンネットを開けることはないので、ウインドーウォッシャーの注入口はAピラーの付け根辺りに付いている。無理を言ってフードを開けてもらうと、エンジンがあるはずのスペースには、なんと巨大なエアコンのフィルターが鎮座していた。

 

 これはHEPAフィルターといって、活性炭が使われており、有害な粉塵やウィルスでさえ、ろ過することができるという。EQS SUVの車内はいつもクリーンなのだ。

 

 

 

 

 インテリアはレザーとマットなウッドを基調としたモダンかつラグジュアリーなもの。ダッシュボードは全面を一枚のガラスで覆った斬新なデザインだ。助手席側にも大型モニターがついており、さまざまな情報を得られるほか、テレビを楽しむこともできる。運転席とコンテンツのシェアも可能である。このモニターは助手席に人が座ったときのみスイッチがオンになる安全設計となっている。

 

 BEVは室内が非常に静かである。だからエンジン専用車のボディだと、風切り音が気になって仕方がないという、本末転倒的な現象がおきる。この点も空力を徹底的に追求したEQS SUVは高いレベルを誇っており、車内はほぼ無音だ(アクセルを深く踏むと、フォーンというSFチックな人工音が響く)。

 

 

 

 

 そこでメルセデスは、オーディオにお金をかけた。スピーカー、アンプはブルメスター社製(何百万もするようなハイエンド・アンプを作っているドイツのメーカー)で、ドルビーアトモスの3D音響システムが奢られている。これは言ってみれば車内を映画館のようにするような装置で、サイズを超えた空間の広がりが感じられる。メルセデスはよほどこのオーディオ・システムに自信があるようで、音楽を聞かせるためだけの試乗車も用意されていた。

 

 目を閉じると、眼の前にコンサート・ホールが広がっているようだ。車内の特定の位置に理想的なリスニング・ポイントを移動させることもできる。静謐な室内とあいまって、ことさらボリュームを上げなくても、ピアニッシモまで聞き取ることができる。クラシック・ファンの人は、特に感動すると思う。

 

 

 

 

 オプションの“ショーファーパッケージ”を選ぶと、リヤシートにも大型のモニターが設置され、前席後席のパッセンジャー同士でコンテンツをシェアすることができる。またパッケージには、メルセデス特製のヘッドホンも付属しており、乗員それぞれが、テレビやオーディオなど、それぞれのエンターテインメントに没入することも可能だ。

 

 運転感覚は、まるで宇宙船を操縦しているようだ。前述の効果音に合わせて、車体は流れるように走る。アイポイントが高く、見晴らしがいい。文字通りロケットを飛ばせるほどのハイテクが投入されており、目の前に広がる大型モニターで各種機能を制御できる。高速道路におけるレーンチェンジなどもスムースで、2.8tの大柄なボディを操ることに不安はない。

 

 道路の継ぎ目におけるハーシュネス(突き上げ)も、ないも同然だ。この乗り心地の良さは、運転者のみならず、同乗する人の疲労も低減してくれるだろう。映画『スターウォーズ』に出てくるランドスピーダーのように、ちょっと地面から浮いているのではないか、という感じすらする。

 

 特筆すべきは、車庫入れや狭いカーブを曲がるときに小回りが効くことだ。4WSにより後輪が最大10度まで曲がり、全長5mを超えるにもかかわらず、最小回転半径は5.1mという驚くべき数値となっている。これはトヨタ・プリウスよりも小さいという。

 

 EQS SUVは、BEV専用プラットフォームを採用したことで、類まれなるスペース・ユーティリティと静粛性を得た、未来の高級車である。ファミリー・カーとしてよし、ショーファーとしてよし、そしてもちろんドライバーズ・カーとしても満点だ。幼い頃、宇宙飛行士になりたかった人は、EQS SUVを買えば、夢の片鱗がかなうかもしれない。

 

 

Mercedes-Benz EQS 450 4MATIC SUV

全長×全幅×全高:5,130×2,035×1,725mm

車両重量:2,880kg

システム最大出力:360PS

システム最大トルク:800N・m

駆動方式:四輪駆動

乗車定員:7名

¥15,420,000〜 Mercedes-Benz