THE IMPRACTICAL CHOICE: JAGUAR XJS
悪魔のような贅沢:ジャガーXJS
June 2021
悪魔のように贅沢で、実用性を考慮しないクルマ選びをするなら、ジャガー XJS V12は間違いなく筆頭グループに入るであろう。
by charlie thomas
photos courtesy of 4 Star Classics
男の人生には、クルマに関する重大な決断を迫られる時がある。例えば、こんな風だ——
楽観的な20代の頃は、スポーティでホットなハッチバックを乗り回し、若い女性を乗せて街中を走った。それはもはや、かすかな記憶となりつつある。
30代の頃は、ライトウェイトスポーツカーを愛していた。日曜の朝に大きな喜びと自由を与えてくれ、今さらながら、手放したことを後悔し、懐かしく思い出している。
40代に入ると、家庭生活でのプレッシャーや責任が増すにつれ、メルセデスやBMW、アウディなど、良識ある新車の購入を検討する。性能は万全、複数年保証は魅力的で、信頼性が最大のセールスポイントだ——。
この男性のチョイスは真っ当ではあるが、どこか退屈であることは否めない。彼に必要なのは、ストレスや怒りを多少感じさせながらも、一度全開にすれば無限の歓びを感じさせてくれる非現実的な一台、かもしれない。
それはつまり、いつか訪れる死や、同じことを繰り返さなければならない日常生活といった悩みを忘れさせてくれるような、爆発的な楽しみを備えたクルマだ。
不必要に大きなV12エンジン、牛を無駄に使った革張りの内装、可笑しいほど小さいリアシート……。
THE RAKEは、悪魔のように贅沢で実用性を考慮しないクルマ選びをするなら、由緒あるジャガーXJSをおすすめする。
ジャガーXJSは、リリースされた当初は厳しい存在だった。ジャガーのレジェンドであり、エンツォ・フェラーリが“史上、最も美しい車”と評したEタイプの後継モデルであったが、XJSは対照的に美しいと評価されなかった。
Eタイプの魅力的な曲線は直線に置き換えられ、そのサイドビューは奇妙に潰れて伸びたように見え、先代のエレガンスとは異なるものだった。
発売当初の評判はまったく良くなかった。しかし、時が経つにつれ、1970年代の英国製グランド・ツアラーならではの魅力を醸し出し、今では熟成されたヴィンテージ・ワインのような存在となっている。
70年代半ばはオイル・ショックに見舞われていたため、ガソリン食いの、5.3リッターV12エンジンを積むクルマを発売するタイミングとしては最悪だった。しかし、この巨大なパワープラントは、長距離クルージングには最適だった。
驚くほどスムーズで、重厚なパワーデリバリーを持つXJSのエンジンは、先代モデルとは異なり、スポーツ性を追求するのではなくリラックスしてドライブを楽しむために設計された、大きくて重厚な車格に適していた。
さらにツーリングカー競技では驚くほどの成功を収め、モデルチェンジを重ねるごとに販売台数を伸ばし、21年間ものライフサイクルを過ごしたのだ。
初期の頃は悪評が多かったXJSだが、最終的にはその大胆なスタイルと妥協のないラグジュアリーさで、個性的で魅力的なクルマを求めるエンスージアストたちに愛された。
さあ、自分の中のミドル・ライフ・クライシスを受け入れよう。